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order made!

DENIM PANTS





 目の前で大興奮中のナギ、そして、そんなわたしは思わぬ展開に頭がついていけていない。なんと明日からの小旅行先が、西谷さんと東峰さんと被っているというまさに奇跡の事態なのだ。それもうちょっと早く知りたかった。だってもう着ていく服だって見繕っているし、今更改めて買いに…とは…いやなるな。別に行ける。

「…いや、まあ被ってるのはそんなに興奮することではなくない?」
「はい最後まで聞く!」
「三種のチーズドリアとボロネーゼオムライスになります」
「ありがとうございます」

 テーブルにランチが運ばれてきたところで、いよいよナギのテンションのボルテージはMAXだ。ボロネーゼオムライスが冷めるから少しだけ静かにしていただけないだろうかとスプーンを掴んだところで、ふっふっふと含み笑いを始めた彼女の口元に嫌な予感が過ぎる。まさか、旅行をなくして西谷さんと二人で行ってきますとか言い出さないだろうな…?

「実はねえ、パーク内一緒に回ろうってなって、ついでにご飯とかも一緒に食べよ〜ってことになったの〜!」
「やっぱり…。ねえもうほんとさあ、ナギのその行動力には脱帽なんだけどわたしは一人で回れっていうの?」
「はあ? なに言ってんの。一緒に決まってんでしょ」
「は」
「ダブルデートよダブルデート! なまえだって東峰さんと知り合いみたいだったし丁度いいじゃん!」

 にっこー! と太陽みたいに笑った友人の顔に言葉が出ない。ってことはつまり、…つまりだ。そのダブルデートとやらにはわたしと東峰さんも含まれてるってこと?!

「いやっ早く言ってよ!」
「アレ、言ってなかったっけ?」
「ほんの数ミリもね!!」

 緊急事態である。まさかそんなことになっていようとはつゆ知らず、わたしは明日、無難にTシャツとスキニーパンツで向かおうと思っていたのだ。
 どうしよう、東峰さんが来るんだったらもうちょっと女っぽい格好したい。楽しむつもりなだけで、動きやすいようにと思っていた二つの洋服はすぐに頭の中で排除されてしまった。あんまり気合いが入ってないように見えて、それとなく女っぽさもあって、そしてカジュアルで、かつ動きやすい服装…。

「え、あれ、おーい、なまえー?」
「…てかナギは明日何着ていくか決まったの?」
「ミニ丈のワンピースで夕君の心を打ち抜こうかと」
「ランチ食べたら買い物行くよ」
「えっダメ!?」

 ダメというわけではないが、それは流石にあからさますぎるのでは、が建前(ていうかもう落とす気満々である)。本音は一つだけ、明日着る服をもう一度見繕う為であった。


―――


「夕さーん!」

 とっても眩しい天気の良い一日になりそうだ。
 地元も近いとのことで行きの電車から一緒に行動することになったわたしとナギ。割と時間に余裕を持ってきたと思ったけれど、もう既に男性陣は待ち合わせの駅にいた。

 職業柄というか、あまり自分の服を「今日は大丈夫だろうか」と不安になることはない。着ている服は、ちゃんと自分に似合うものをチョイスしているからだ。だけど、今日は違う。ありとあらゆる自分が映るものの前で逐一確認をしては「大丈夫だろうか」と不安になるのだ。そうか、これが恋する乙女なのか…と背中が寒くなる言葉を頭の中でよぎらせて、一つ深呼吸をする。アメスリのベージュのタンクトップ、ドルマンのニットカーディガン、タック入りのデニムパンツ。ちょっと寒いかもと思った時用に、オフショルのハイゲージニットも着替え用で持ってきている。準備万端だ。

「おお! 二人ともかわいーっすね!」
「やだあ、照れる〜」
「早かったですね、時間間違えたかと思いました」
「俺も西谷も楽しみにしてたからなあ」

 ああ、そのふにゃふにゃの笑顔がほんとにたまんないんですよ…! と、心の中で大きく叫ぶ。そのむずむずする口をなんとか抑えて「わたしもです」と言うだけで精一杯だ。

「ね、わたし夕君の隣行っちゃうからあとお願いね」

 こっそり耳打ちしてきたナギの言葉を最初は理解してなくて、適当に返事を返す。そのままぴょんぴょんと西谷さんの隣へ走って行った彼女はもう、分かりやすいどころか全身全霊で「好き!」と言ってるようなものである。というかアレに気付いてるのか気付いてないのか、彼の様子もまた読めない。

「…ん?」

 そしてわたしは暫くして気付くこととなる。ナギの言っていた言葉の意味に。

2020.05.29




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