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 勉強ができないけど、わたしと同じクラスメイトの田中君は運動神経抜群だ。対してわたしは、勉強はできるけど運動全般ダメの中のダメ。つまり、超運動音痴。走ろうと思えば何もないところで足が縺れて転倒するし、球技となればボールに遊ばれる。…まあつまりはそんな訳で、今日も今日とて球技大会の放課後練習である。そうして、その練習に付き合ってくれているのが田中君だ。

「おーい苗字、もうちょっとこう腕をしっかり伸ばして、」
「田中君、腕痛い…」
「音をあげるのはえーぞー。迷惑掛けたくないって俺に言いにきたの苗字だろーが」

 そうなんだけど。…それはもちろんそうなんだけど。自分の腕を見ると、ほんのりと赤くなっている。ああ、もう痛いからやめたい。そう思っても、確かに球技大会の練習で一番迷惑をかけていたのはこのわたしなのだ。そして、田中君に泣きついたのもわたし。田中君は男子バレー部だから、バレーボールは特に得意なスポーツなんだろう。彼のスパイクは、…こう、見惚れるくらいカッコイイ。だから、そんな彼にバレーの指導を頼んだのはわたしの我儘だ。

「にしてもビビるくらい下手くそなんだなー。逆にすげえよ」
「ひ、酷い!!」
「いや褒めてんだよ! 普通嫌だろ、そんだけ苦手なのに頑張るのって」
「そうなんだけど…」
「そういうの俺はスゲー尊敬する!!」

 ボール片手に仁王立ち。そして、がははと笑ってわたしを指差した。え…そうなのかな…。でも、結局上手くなる兆しなんかないし、もう既に逃げたい気持ちがある。だって痛いしボール思ったところに行かないし、なにより楽しいとは思えない。きっと田中君くらい上手だったら楽しいんだろうけど。魔法みたいに綺麗にボールがあがると、絶対に嬉しいもん。

 田中君とは一年生の時から一緒のクラスで、最初はめちゃくちゃ怖かった。しかも席も隣で、この人絶対将来ヤンキーと絡むような人なんだろうなと思っていた、のに。入学してからたった数日でいきなり坊主になっていたのだから、まさに目が飛び出たという表現が正しいと思う。それからは怖いけれどもしかしたらそうでもないかも、という印象。そうして今は、ドキドキされられる存在になってしまったのだから、どこにどう転ぶか人間ってのは分からないものだと思った。

「そういえばよー」
「なに?」
「もうすぐテストあるじゃん? 数学、英語、マジでヤベーんだよな…」
「…それいっつも最初から最後まで爆睡してるからじゃないの?」
「言うな! 寝たくて寝てる訳ではない! 分からないからしょうがなく寝ているんだ!!」
「結果それはダメなやつだよ…」

 なんで自信満々に言うんだろう…。バレーに打ち込んでいる力の三分の一でも勉強に入れば何か変わるんじゃないだろうか。だけど、必死な顔を見るとそんなことを言うような気にもならなくて、思わずわたしも口籠った。じゃあ、私に何か出来ることはあるのか。…そう考えていたら、必死すぎる目がこちらを向いた。

「苗字さ、俺がバレー教える代わりに勉強教えてくんねー?」
「え?」
「成績いっつもいいだろ? 今度こそ俺は、力をギャフンと言わせてみたい!!」
「ほんと? いいの?」
「? いいのってなんだよ?」
「私じゃ役不足じゃない?」
「役不足ってんなわけねーじゃん。苗字の方が成績良いんだし」

 そ、そういう意味じゃなくて、ちゃんと教えられるのか心配とか、そういうこと。でも、なんの不満もなさそうな顔で言われたものだから、つい頭を縦に振って「いいよ」と答えてしまった。田中君にとって、わたしは役不足ではない。…そう考えただけでやばい、…めっちゃくちゃ嬉しい。

 じゃあ約束な、と、ぽんと上げられたボールに面をしっかり向けた腕を当てて、なんとか田中君に返す。だけど、田中君に返したはずのボールはわたしのほぼ真上に上がった。ああ、またやった。なんで向こうに行ってくれないんだろう。ボールを見つめたままぼんやりと考えていると、切羽詰まった声が真正面から聞こえてきて我に返った。

「バカ! ぶつか、」

 る。気付いた時には既にぶつかっていた。田中君はわたしが上げたボールを必死に追いかけてしっかり腕を伸ばしていたのに、わたしがちゃんと避けてあげようともしなかったから。
 ガン! とぶつかって床に転がって、何かが体に乗っかった。なんだか口元が少し濡れていて無意識に舌で舐めた時、メロンパンのような、菓子パンの味が。

「…ご、ごめんなさ…」
「いてて…」
「なんか、…メロンパンの味したけど、なに…?」
「メロンパンって今日俺が昼食ったやつ…」
「?」
「…。……そっ…!!!??!」

 何かに気付いたらしい田中君が、わたしの上から猛スピードで退いた。口をがばっと隠したのを見た瞬間、何が起こったのか大体の想像がついてぼっと顔が熱くなる。田中君、お昼にメロンパン食べたんだ。じゃあ今わたしの口元でメロンパンの味がしたのって、…もしや。
 まさか。

「いや!? これは事故なんだ!! ちょっとラッキーとか思ってなくはない!! けども!!」
「…メロンパンとか卑怯…」
「うわああああ俺はあああなんてことをををおあお!!!」
「初めては苺味って…聞いてたのに…」
「苺味いいいいいいいぃぃいい」

 なんて可愛げのないコメントだってことは分かっている。だけど田中君にきちんとしたフォローを出来るほどの器用さなんてわたしは持ち合わせていない。苺味がよかったって誤魔化しただけで、初めてが田中君に奪われたことはむしろ好都合だ。…告白する予定はないから、絶対に言わないけど。


ろくでなし2号