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 年の差六歳、わたしが下。もう大学二年生なのにまだ誰とも付き合ったことがない。その理由は目の前でぼえーっと煙草を吸っているこの人のせい。もう三年もずっと好きなのにわたしのことをはぐらかしてばっかりのこの人のせいだ。

「? なんだよ」
「好きです」
「またお前は性懲りも無く…」

 出た。烏養さんの「性懲りも無く」。ふうと口から煙を吐いて、呆れたように苦い顔をした彼は、それよりもとばかりにわたしに店出しの商品を渡してきた。一言言っておくがわたしは店員でもなんでもない。毎日坂ノ下商店に遊びにくるだけの、ただの客だ。でも、ほとんど毎日来ているのも顔を合わせるのも分かってて店出しの手伝いをさせてくる。それを嫌だと言わない訳がないのだってきっと分かってて、この人は小さな段ボールを渡してくるのだ。

「さっさと出して帰れよ」
「酷くないですか!」
「冗談に付き合ってる暇ないっていつも言ってるだろ」

 いつも冗談言ってるつもりないんですけど! いつも本気なんですけど!
 それを言ったところでこの人は全く聞き耳を持たないのだから溜息しか零せない。いっそのこと烏養さん以上に素敵でかっこいい好きな人が出来ればよかったのに、残念ながら彼より素敵でかっこいい人なんて未だかつて私の前に現れたことがないのだからいけない。

「高校の頃からずっと言ってるのになんで信じてくれないんですか…」
「信じろっていう方が無理だろ。こっちはおっさんだぞ」
「おっさんでもわたしは好きなんです」
「そこ少しは否定しろよ」

 ぼすんと頭の上に乗せられた手がほら早く商品出しちまえと急かしにかかっている。だからアルバイトじゃないんですってば。
 昼間のお店の中はほとんど人がいなくて、大体が二人きり。授業は四限からだからギリギリまで居たいんだけど、全部終わったら無理矢理にでも追い出されそうだ。それはいや、絶対いや! 今度こそちゃんと本気だって分かってもらいたいんだもん。だから、今日はずっと好きですって言い続けようとして来たんだもん!

 凄くゆっくりとした動作で段ボールの真ん中に鋏を入れた。あんまり重くないけど何が入ってるんだろうか。店内を見た限りでは、商品が少なくなってそうな所がないように見えるんだけど。そりゃあお客さんわたししかいないもんなあ。それなのに物が減る訳もない。そうやって煙草ばっかり吸いながら新聞読んで、アルバイトでもないわたしに店出しなんかさせるからいけないんだ。だからお客さん来ないんだぞ。

「…やっぱり」

 段ボールの中身を見てふと声が出た。ぎゅうぎゅうに詰め込まれたのはお菓子の山で、お菓子コーナーには既にぱんぱんに補充がされている。こんなの入らないよ。上に乗せてもいいなら入るけど、流石にそれは汚いんじゃないか。…陳列無視していいんだろうか。そうやって悩みに悩んだ結果、新聞を読む烏養さんに声を掛けることにした。ってか手伝ってくれてもよくない!?

「あの」
「おー」
「もうこれ店出しできませんけど…」
「あれ、そうだっけか」

 カタンと席を立ってのそのそとこちらに歩いてくる烏養さんは、周りをきょろきょろと見渡しながら近付いてくる。はあ、と溜息をついて頭をがしがしと掻いて、少しだけ気不味い顔が見えた。

「あー…本当だな、入んねえわ」

 隣でよいしょと屈んで、がさごそと商品を照らし合わせる。こんなのいつもお店見てるんだったら分かっているだろうに、もしかしてわたしを虐めているのだろうか。もしそうだとしてもちゃんと構ってもらえるのが嬉しいとか思っちゃうんだから、そうしてもし本気で店出しを間違って頼んでいたんだったらそれすらもなんだかおっちょこちょいで可愛いなあとか思っちゃうんだから、本当にどうしようもない。

「もー。ちゃんと確認してから仕事ふってくださいよ」
「いや、確認はしてっけど」
「じゃあなんで出さなくてもいいやつを、」
「こっち側なら店の外でも見えねえだろ」
「へ、」

 店の中で一番死角だし。そう言ってわたしの右腕を掴む。なに、急にどうしたんですかって言おうとしてやめた。いや、やめたというよりはできなかった。鼻に残る煙草の香りと、口元に乗せられた苦味。吃驚しすぎて、その一瞬の彼の熱い瞳の中を見てしまった。…酷くぎらぎらした、初めて見る男の人の目を。

「…少しは目ェ閉じろよ」
「…急に、は、むり…」
「つーか、…いい加減しつこいんだよお前は。あんな所でいつも好きですとか言ってたら誰かに聞かれるだろうが…」
「う、烏養さんわたしのこと好き、なんですか、」
「じゃなきゃこんなことするか」
「ツンデレなんですか…!」
「うっせー黙れ!」

 うわ、うわうわ、頬っぺた真っ赤だ。ぐふふと笑いそうだった顔をびたんと両方から挟まれて、お前ふざけんなくそって暴言を吐かれたけど、それさえも既に愛おしい。やばい。照れてんの、怒ってんの、どっちなの。

「これからあんま生意気なことすっと我慢できねーからな」

 生意気なこと? 生意気なことってなに? 笑い声が止まらなくなってきて、それを良しとしなかった彼の唇がまた近付いた。我慢できねーからなって、我慢してくださいなんてわたし一言も言ってないもんね。

「わたし初めてだったんですけど、責任取ってくれるんですよね…?」
「その言い方やめろ。…ちゃんと責任は取るから」

 男らしいその言葉に、胸にハートの矢が刺さった。この人はどれだけわたしを夢中にさせたら気が済むんだろう。ぶわわと胸の奥から好きだって言葉が溢れてくる。それを何度も口から出したら「もう分かったから、ヤメロ」って顔を背けた烏養さん。
 無理です。だってもう、言わずにはいられないんだもん。


もういいかい、もうダメよ