とあるマジバのバスケ部男子

▽キタコレ!?



 私がここのバイトでミスをした事はあまり無い。やらかしたとしてもほんの些細な事だ。
 でも…今回は。今回はちょっとマズイ。

「……っ」

 お客様の目の前で、トレイの中にポテトをぶちまけてしまったのだ。

 やっちゃった。やってしまった。

 店長がいないだけ、まだマシだったけど…。お客様である彼は、じーっとぶちまけられたポテトを眺めている。

「……」
「す…すみません! ただ今お取りかえ…」
「ポテトが…ポテッと」
「…はい?」

 それは突然の出来事。その彼は私がポテトをぶちまけたのに対し、ダジャレをぶちまけたのだ。

「キタコレ」

 そして、ノートを取り出していきなり書き込みを始めた。表紙にはネタ帳の文字。え、このお客様ダジャレ好きなの!?

 ポテトが、ポテッと。

 ダメ、ダメだよ、私。今は…私、ミス…してるん…だから……


「ぷっ、あははははは!」
「!?」

 私は堪えきれず、声を上げて笑ってしまった。だって、怒られるかと思ったのに…すっごく真剣な顔でダジャレ言い出すんだもん。しかもネタ帳まで作ってるんなんて。……ポテッとって……、何でっ…笑い止まんないよ! 気が付いたら涙まで出てきた。

「え、面白かった?」
「はいっ、とっても!」
「そうか…。バスケ部の皆は全然笑ってくれないから、嬉しいよ」

 彼、バスケ部なのか…。こんな良いダジャレ言えるなら練習も盛り上がるだろうに…。

「ありがとう」

 彼はネタ帳を鞄に戻すと、ポテトが散乱したままのトレイを持って店内の奥に姿を消した。ミスを許してくれた以外にも、彼には感謝したいな。




fin.

(2013 04/11〜04/20)








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