とあるマジバのバスケ部男子

▽腹黒主将



「このセット、テイクアウトでよろしゅう」
「かしこまりました! 少々お待ちください」

 黒髪に眼鏡をかけた糸目のお客様が私のカウンターにやって来た。
 ここのマジバでバイトをしていて、関西弁のお客様の対応をするのは初めてだ。旅行か何かかと思ったけれど、着ている制服は東京都内の高校のものだった。あれは……桐皇学園、だったかな。寮とかもあるんだよね、確か。じゃあ、この人はその寮から学校通いなのかな?

「せや、ワシは桐皇学園の生徒やで。ちなみに寮から通っとる。勘ええな、店員サン」

 ふーん、やっぱり寮からだったか…高校生なのに凄いなぁ。「ワシ」って全然高校生っぽくないけど。
 桐皇学園って、最近バスケに力入れてるんだったよね…、近年のインターハイとか凄いって聞いたし。
 でも、この人バスケ部には見えないな。運動神経悪くは無さそうだけど、もっと頭脳戦向けというか、悪い事やってそう…。駆け引き得意そうな顔してるもんね。

「ワシはそんな悪い奴やあらへんよ〜?」
「ですよねぇ……って、え?」

 私の手から用意していたポテトが滑り落ちた。
 私は商品の準備をしている間、一言も喋っていないはずだ。彼に対してちょっと失礼な考え事をしていただけだ。何で私が考えてる事に話噛み合わせられたんだこの人。

「え、と……すみません」
「ん? 何を謝っとるん? 別に構わんで、急いでへんし。ゆっくり準備しいや?」
「は、はい」

 別にポテトの事で謝った訳じゃ無いんだけど……。
 準備し直している私ににっこり笑顔が向けられる。何か企んでいるような含み笑いについつい怯えてしまった。




「…お待たせいたしました」

 商品を丁寧に手渡す。
 うーん…この人の考えている事全く読めないや。私の考えている事は全部バレているのに、ちょっと不公平な気がする。

「バスケにも駆け引きは必要や。相手の動きとか読んだり考えたりせなあかんからな」
「バスケ、ですか」
「ワシ、バスケ部の主将やっとんねん。自分、さっき似合わへんとか思っとったやろ? 結構強いんやで?」

 ええ…考えが改まりました。あなた無敵ですよ。わざわざ口に出す必要も無いだろうから、心の中で彼にそう伝えた。

「おおきに」

 ……伝わったみたいです。


 彼がマジバを出ていき、自動ドアが閉まったのを確認して私は長い長い溜息を吐く。

 営業スマイルが得意そうなお客様だった。でも、一緒に働くのは絶対嫌だな…。




fin.

(2013 06/16〜10/20)








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