とあるマジバのバスケ部男子

▽恐く…ないよ?



 私は困っていた。
 左隣のカウンターにて。明るい髪色の秀徳高校生が青筋を立てて店員を睨んでいる。


 左隣のカウンターの店員は、先日入ったばかりの新人バイトの男の子だ。まだ仕事もあまり覚えられていなくて、多少ミスが目立つ。だからだろうか、お客様が怒っているのは。

 チラチラ左を気にしていたら、右隣のベテラン先輩がカウンターチェンジを命じてきた。…マジですか。
 新人バイトくんが、泣きそうになりながらこっちを見てる。…私も新人の部類に入ると思うんだけど…。
 かと言ってこのままだと、余計にお客様を怒らせてしまいそうだからな…。新人バイトくんのトラウマになっちゃっても可哀想。よし、やるっきゃない。選手交代だ!

「いらっしゃいませ!」
「あ?」

 無理、無理無理無理。
 ちょっ…ベテラン先輩! このお客様恐すぎですって…!!
 でも、後輩の前でかっこ悪い姿は見せられない。負けない。めげない!

「ご注文は…!」
「テイクアウト。このセット5つで…」

 5つ…1人で食べる訳では無いよな…。5人分って事かな。

「かしこまりまし「おーい」
「木村、」

 私の声に、入店してきた坊主頭の男性の声が被さった。秀徳高校の制服を着ている。木村さんというらしい。

「緑間が注文変更だってよ」
「んだと!? つーか、何でお前が伝えてんの!? あいつが自分で言いに来りゃいいだろ!!」
「今日は厄日だからマジバに近寄りたくねぇんだと。ま、注文しに行くじゃんけん、負けたのお前だし」
「く…っ、後であいつ轢く!! ぜってー轢く!!」

 轢くって言った!! この人今、轢くって言った!!

 用事が済んだのか、木村さんというお客様は行ってしまった。待って!! こんな恐い人置いていかないで!!
 新人バイトくんみたいに縮み上がっていたら、カウンターに向き直った彼と目が合ってしまった。ひぇぇ…身長高い。

「さ、さっきおっしゃっていた注文変更いたしますか?」
「ああ、頼むわ」




 待たせないようにいつもより焦って商品を準備した。
 上手く笑えない。紙袋を持つ手が震える。

「お…お待たせいたしました」
「おい」
「はい!!」

 彼は商品を受け取って私の方を見た。気のせいか、さっきより眉が下がっている。

「オレがイラついてんのはクソ生意気なバスケ部の後輩に対してだからな。お前にじゃねーから気にすんなよ」

 そうか、バスケのメンバー5人分の注文だったのか。
 彼、私がビビっていたの気付いてフォローしてくれたんだね。口は悪いけど、性格自体は良い人なのかも…。嫌がりながらも、後輩の分きちんと買ってあげた訳だし。


 彼を見送った後、新人バイトくんが頭を下げてきた。
 このマジバはいろんな人が来るからすぐに慣れるよ。先輩風を吹かせてそう言ったら、ベテラン先輩に笑われてしまった。




fin.

(2013 05/21〜06/15)








[*prev] [next#]
[mokuji]