とあるマジバのバスケ部男子

▽ナンパファイター



 私はナンパされた事が無い。だからされる人が少し羨ましい。ナンパされる人には、される程の魅力があるって事だ。
 バイトに向かう前にそんな事を考えていたからかも知れない。こんな目に遭っているのは。

「さあ、これからのオレ達について語り合わないか?」
「あ、あの…ご注文……」

 私は今、人生初めてのナンパをカウンター越しに受けている。


 彼のせいで私のカウンターには誰も並ぼうとしない。両隣の先輩方のところには5人くらいずつの列が出来ている。
 ちょっとお客様方、哀れんだ目で見るくらいなら私のカウンターに並んで。そして助けて。

「お客様、あの」
「ん? ああ、ごめん。オレの事教えた方が良いよな。オレは海常高校の生徒なんだけど…」

 あなたの事より注文が知りたいんだ私は! …なんて言いたくなったけど、やめた。
 彼の高校名、聞いた事あるぞ。海常高校…間違いが無ければ、神奈川県の…。

「…バスケ強いところですよね?」
「え…海常知ってる? オレはそこのバスケ部のスタメンなんだ!」
「!」

 なんという事だろう。このお客様、強豪バスケ部のレギュラー…!?

「お客様…ポジションは…?」
「シューティングガード!」
「す、すごい!」
「フォームが変則的って言われてるよ」
「個性的なんですね。素敵だと思いますよ!」
「ほ、本当か!?」

 私は注文も取らずに彼と盛り上がってしまった。変な言い方や大袈裟な表現が目立つけど、悪い人じゃない。バスケに熱心に打ち込んでるのが解る。


「先輩何して(る)んですかぁー!? キャプテンめっちゃ怒ってますよー! (れ)んしゅう試合の時間迫って(る)って!」
「…あ、悪い早川!」

 早川と呼ばれた元気な男性の声が店内に響き渡った。同じ制服のところを見ると、彼も海常のバスケ部みたいだね……

「って、これから練習試合なんですか!?」

 このお客様、そんなギリギリなのにナンパしてたって事…!?
 即行で注文を聞き出し、テイクアウト用の紙袋に商品を詰め込んでいく。

「お待たせいたしました!」
「ありがとう! あ、最後にスマイルいただけますか」

 マジバのスマイルは0円だ。私は焦りつつ、今日一番の笑顔を彼に送る。

「試合、ファイトです!」
「! ああ! 絶対勝つよ!」
「先輩! 早く!」

 急ぎ気味に店を出ていく彼らを見送ると、私のカウンターにも人が並び始めた。
 彼が試合を頑張るなら、私はバイト頑張るぞ!




fin.

(2013 05/21〜06/15)



「先輩」呼びは仕様です…!








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