セットしていたアラームが鳴った早朝4時50分、オレは起床した。 日曜日で、今日のバスケ部の練習は午後からだけれど、オレはある目的を果たすためにこうして起きている。 朝の気温の低さに身震いする。顔を洗って、軽い身支度を整えると、10分はあっという間に過ぎた。…もう良いかな。冷えた携帯を体温であたためながら動かして、少し躊躇った後にコールを始めた。 『氷室くん?』 「Good morning…ナマエ」 『グッドモーニング!』 こんな時間に電話してくるのは、恋人であるオレぐらいなのだろう。そこまで驚いた様子も無いナマエは、「早いね」と優しく言った。彼女の暖かい声が眠気を誘う。出そうになった欠伸を必死に噛み殺し、オレは姿勢を正す。 「今日、試合だったよな」 『……、うん』 予想通り、ナマエの声のトーンは少し落ち込んだ。 オレがこんな早くに電話したのは、ナマエが心配だったからだ。 『ちょっと恐いんだよね…。今日の相手強いんだ』 彼女が今日のために一緒懸命頑張って努力してきたのを知っている。勝てるのか不安で泣きそうになっていたのも知っている。だから、少しでもナマエの肩の力を抜いてやりたくて電話をかけた。 けれどいざとなったら、どういう言葉で励ませば彼女の力になれるのか解らなくなってきた。急がないと、ナマエが出発してしまう。何か言わないと早朝に電話した意味が無くなる。 ぐるぐる思考を張り巡らせているうちに、空気を読まず襲ってくる睡魔。 「……ナマエなら大丈夫だか…あふっ」 『えっ?』 寝起きに考え事をするのは、あまりよろしくなかったらしい。我慢していたはずの欠伸が最悪のタイミングで出てきてしまった。 会話が途切れて、電話先のナマエも黙った。かと思ったら、小さく小さく聞こえてきた笑いを堪える声。 『氷室くん…っ…今のっ…ふふ』 「…っ、忘れてくれ!」 『何かね、今ので元気になれた気がする!』 ナマエの声が引き締まった。かっこ悪いところをさらしてしまったけれど、おかげで彼女の余計な力を抜く事が出来たみたいだ。 「肝心な時に決まらないな…」 『氷室くんの言葉なら、私は何でも喜んで受けとるよ?』 「そろそろ行かなくちゃ」、ナマエが電話の終わりを告げる。オレが最後に渡す言葉は一つだけだ。 「ナマエ……頑張れ!」 『うん! ベストを尽くしてくる!』 電話を切って、オレはベッドに潜り込んだ。彼女なら大丈夫だと確信した瞬間に重くなってきた瞼。部活まで、もう少し眠ろうかな。 励ましてナマエを安心させてやりたかったのに、オレの方が安心してしまった。 (ナマエは強い、大丈夫だ) 彼女から勝利の報告が来るのは、オレが部活を終えた数時間後の事───。 05:00 激励 (2013/07/24) 第5作目。試合前に励ます、朝に弱い氷室君。 リクエストありがとうございました! [mokuji] |