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 別に普段から苛々している訳じゃない。ストレスというのは日々少しずつ、ふつふつと溜まっていくものだ。部活でもストレスはそれなりに溜まる。それが主将だったら尚更。
全てにおいて正しい僕だって、誰かに話を聞いてもらいたい時がある。

 もし、電話先の彼女がもう寝ていたら。不安が募る前に、通話ボタンを押した。


『お、赤司くん。こんばんはー』
「名前。話をしたいんだが、今空いているか」
『うん、ちょうど髪乾かしたところだからね』

 何時にかけても、必ず彼女は僕からの電話に出てくれる。何も言わずに付き合ってくれる彼女の名前は、僕が弱音を吐く事が出来る唯一の存在だ。話をいくらでも聞いてくれるし、からかう事はあっても貶したり誰かに言ったりする事は一切しない。

『どうしたの、そんな苛々して。溜まってるの? 思春期特有の白いアレが』
「馬鹿にしてるのか」
『あははっ、冗談だよ! はい、深呼吸ー。で、今日はどうしたの』

 温度の変わらない名前の声に気持ちを静める。素直に深呼吸してから、僕は言葉をぽつりぽつりと溢していく。

「部活で…」
『ムカつく事でもあった?』
「特別何か言われた訳じゃない。ただ……、……玲央も永吉も小太郎も頭が高い。特に今日は──」

 共に戦っているチームメイトの愚痴を言う事は、彼女の前以外では絶対に無い。彼らは従順に僕についてきてくれるし、むしろありがたいと思う。それでも僕が人間である限り、彼らに腹が立つ事がある。毎日顔を合わせるのだから、嫌でも。何気無く言われた優しさが負担になったり、ありがた迷惑になったり。
上手く説明出来ない感情。その感情に僕はいつも蓋をして、自分の中に蓄積してしまう。

『赤司くんは、正しいよ』

 だから、僕には名前が必要だ。名前の前では、その閉じた蓋を遠慮せずに開けられる。渦巻く汚い感情を何も隠さなくて良い。
 会話に全く噛み合っていない彼女の言葉だが、僕にとっては充分過ぎる一言で、「ああ」とだけ答えておいた。

『赤司くん、』
「…何だい」
『抱え込む前に、全部吐き出しておきなよ。私、まだ寝ないから』

 ああ、やっぱり名前は僕を解ってくれている。




 それからは言葉が止まらずに溢れて、心が空になった頃にはもう深夜だった。

 朝、名前は眠そうな顔をして学校に来るだろう。ちゃんと責任を取って、昼休みは僕の肩を貸して寝かせてやろう。



22:00 愚痴






(2013/07/06)

第3作目。部活の事を愚痴る赤司君。
リクエストありがとうございました!









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