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 また失敗した。今の女の子、結構可愛かったのにな…。

 部活がオフだから街へ繰り出してみたものの、収穫ゼロ。初めは良い雰囲気なのに、話していくうちに女の子は去っていく。何故だ。何故オレを受け入れてくれないんだ。

 時間帯的に、街にはカップルが増え始めている。見せつけてくれるなよ、オレの胸が痛む。
 立ち尽くすのも虚しくて、近くのガードレールに腰かけて携帯を開く。よくかけるその電話番号は、履歴から簡単に探し出せた。


『……はい』
「苗字ー、オレだけど」
『何の用? 森山』

 不機嫌丸出しでオレに問いかけた苗字は出て早々、すぐ用件を言わないと切る、とカウントダウンを始めた。…酷いな。オレ、一応傷心中なんだけど。

「また失敗した。慰めてくれ」
『はいはい、ざまーみろ』

 主語である“ナンパ”という言葉は言わなくても伝わる。オレが苗字にかける電話というとこれくらいしか話題が無い。

『本当に森山は懲りないね。残念な奴』
「失礼な。精一杯頑張ったつもりだぞ」
『何を根拠に?』
「ネットを根拠に」

 苗字の大袈裟な溜息が携帯を伝って、耳に入る。電話機越しに聞くと少しざらついた音だ。

『だからダメなんじゃん』

 前に黄瀬が同じような事を言ってたな…ネットの知識は捨てろ、と。苗字にも、毎回似た話をされる。うん、黄瀬より説得力がある……気がする。


『満足した?』
「え?」

 突然の低い声に吃驚して、言葉につまる。いつもの呆れた感じとは違ったドス黒い苗字の声。初めて聞いた。

『森山との電話ってこんな話題ばかりじゃん。つまんないよ』

 もう切って良いかと訊いた苗字が少し悲しそうな雰囲気で、オレは慌てる。

 つまらない、か。
 確かにつまらないよな。よく考えたら、都合が良いのはオレだけだ。
何でもっと早く気付けなかったんだろう。酷いのはオレの方じゃないか。

「……ちょっと待ってくれ」
『何?』

 まだ、苗字を繋ぎ止めておきたい。深く息を吸って、吐いて。

「苗字、いつもこんな無駄話に付き合ってくれてありがとう。今度は、もっと楽しい話しような」

 今思った言葉を、通話口にそのまま言った。何だかナンパの時よりむず痒く感じる。
 驚いた声が聞こえて、苗字はおとなしくなった。怒らせた? 嫌われた…のか?どうしよう。
 再度謝ろうとしたら、苗字から意外な一言が飛び出した。

『何、今の……超、かっこ良い…』
「えっ……え!? 苗字!? 今……」

 ブツン、と一方的に電話が切られた。オレは携帯を耳に押し当てたまま動けなくなる。
 最後に聞こえた不安定な「かっこ良い」が、耳に焼き付いた。…何故こんなに嬉しいんだ。この気持ちは何だ、安心感か?

 カップルが、幸せそうに腕を絡ませてオレの前を通り過ぎていく。なんとなくその男女に自分と苗字を重ねてしまい、顔が熱っぽくなった。



16:00 反省






(2013/07/03)

第2作目。少し疎めな森山君。







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