読みかけの文庫本から顔を上げたら、机上のデジタル時計の日付が変わった。 物語のキリが悪い。そろそろ寝ようか、あと少し読み進めようか迷っていたところで携帯のバイブレーションが鳴った。確認すると、大好きな名前さんからの着信だった。 「もしもし、黒子です」 『ごめんね、急に…』 こんな時間にかかってくるなんて…急用なんでしょうか。 いつも明るい彼女の声が、少し暗いように感じられる。焦燥感に似たものがボクの中に広がった。 「泣きそうな声をしていますけど何かありました?」 『怖い夢、見ちゃって…』 彼女が震えた声でボクに伝えたのは、とても可愛らしい理由だった。 『ごめん。くだらない事だって解ってるんだけど…、どうしても黒子くんの声聞きたくて』 そんな訳無いでしょう。謝る事はひとつもありませんよ。ボクの声で名前さんが安心出来るなら、いくらでも話をしましょう。 「どんな夢だったんですか?」 『……黒子くんから、バスケが奪われちゃう夢』 「…それは、怖いですね」 予想外過ぎて、つい笑ってしまった。てっきり、彼女が苦手なオバケでも出てきたのかと思っていたんですけど。 名前さんの夢の中にボクが登場したんですね。こんなに嬉しい事はありません。 『笑い事じゃないよ…!!』 「すみません、」 『……』 名前さん、黙ってしまいました。困りました。電話越しだから曖昧ですが、悲しい顔をしているのでしょう。 「確かに嫌いになった事もあります。でも、今はバスケが大好きです。好きでいる限り、ボクからバスケは無くなりません」 何度も大丈夫と言い聞かせたら、ありがとうと小さな声が受話器越しに届いてきた。 「眠れそうですか」 『うん、黒子くんのおかげで』 もう一度ボクにありがとうと言った彼女の声は明るかった。きっと、次は良い夢が見られるでしょう。 “今日”が始まって既に3分経過。 朝練もあるし、文庫本の続きは睡眠後のお楽しみという事で。 「おやすみなさい───」 00:00 怖い夢 (2013/06/16) 第1作目。優しい黒子君。 [mokuji] |