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002




 息子が高校生になった今でも、オレはたまに親子でバスケがしたくなる。

 今日は海常の部活オフと仕事の休みが重なったので、名前と息子を連れてコートが併設された公園へやって来た。




 ただ今、オレと息子は1on1の真っ最中。息子がバスケを始めたのも海常へ入ったのも、言わずもがなオレの影響だ。小さい頃から教え込んでいた甲斐あって、息子は中学時代から絶対的なシューティングガードとして活躍している。だから上手い。まるで現役時代の黄瀬を相手にしているかのようだ。
 息子と黄瀬…どっちが強いかを考えていたら、息子が不満そうに溜め息を吐いた。

「余計な事考えてるな?」
「え……、なっ!?」
「遅いぞ父さん!」

 息子は強いドリブルをしてオレを抜くと、オレによく似たフォームでシュートを放った。乾いた音がしてリングにボールが吸い込まれる。しまった、やられた。黄瀬のせいで……いや、オレのせいか。

 名前は近くのベンチで、小さく拍手をしていた。オレの愛妻はさっきから息子に釘付け。息子に嫉妬する事は無いけれど、ちょっと悲しい。オレは常に名前のために戦っているのに。

「随分上手くなったな、由政…」
「父さんが下手になったんじゃないか?」
「あのな、オレはもう歳なんだ……よっ」
「あっ!!?」
「ははっ、油断したな!」

 攻守交代してすぐ、オレのシュートもゴールへ収まった。よし、仕返し完了だ。何年たっても打つ時の感触は覚えているから正確に決められる。元レギュラー舐めんなよ。

 悔しがる息子に、強がって笑ってみる。正直、すごくしんどい。もう歳だって言うのは本当だ。技術は劣らずとも、体がついていかない。
 ベンチの名前に視線を投げかける。オレが少しだけ苦笑いしたのを、名前は見逃さない。伊達に長年夫婦やってないからな。

「そろそろ休憩する?」
「ああ…」

 膝に手をついてぜぇっと大きく息を吐く。やっぱり限界だったみたいだ。体力は現役に敵うはずが無い。

 名前はオレに駆け寄って、用意していたスポーツドリンクとタオルを差し出した。
 「お疲れ様」と笑う名前は天使か何かだと思う。現役時代には味わった事の無い至福のひとときに、オレは口元を綻ばせた。

「さすがはオレの専属マネージャーだな」

 体を密着させて囁くと、名前の肩が上がった。息子しかいないのに恥ずかしそうに周りをキョロキョロする名前は、本当に若々しくて愛らしい。とても高校生の子持ちとは思えない。

「ダサい事言わないでよ…」
「ドキドキしただろ?」
「あーもう煩い! 汗ちゃんと拭いて!」

 風邪引かれたら困る…と頬を染める名前。オレは破顔したままタオルを受け取った。
 甘い雰囲気を醸し出すオレ達に息子が大袈裟な存在主張をしてくるもんだから、オレはドヤ顔をかまして自分より少しだけ身長の高い息子を見やる。

「由政ごめんね、無視しちゃって。はい、お疲れ様!」

 名前はオレを押し退け、もう一枚持っていたタオルを息子の頬に押し当てた。
 息子は毎日ハードな部活メニューをこなしているから、これくらいの勝負じゃ息も乱さないし汗もあまり掻かない。それなのに、名前は必死に背伸びしてタオルを動かしている。オレに照れているのがバレバレだ。

「か、母さん!! …恥ずかしい」
「いつか彼女にやってもらえると良いね?」

 息子は頬を膨らまし、タオルを奪って乱暴に顔を拭いた。

 オレの汗も拭いてほしいと頼んだら、もう一勝負行って来いと怒られた。耳まで赤くしてベンチに逃げていく名前が可愛い。








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