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 大音量のトランペットの音が廊下を駆け抜け、疲れきっている名前の耳を劈いた。

 今年度のトランペットパートは血の気が多い部員が勢揃いしており、断トツで仲が不安定だと言われている。名前は無意識のうちに巡回を後回しにしていた。

(大丈夫かな…)

 巡回も終盤に差しかかり、パートが限られてきた。不安要素満載だが躊躇ってばかりいられない。苛立ちの籠った音色に焦りを感じながら、名前はトランペットパートへ急いだ。





──── 008





「若松くん、入るよ」
「誰だ!! …って苗字かよ」

 ドアを開けた瞬間にトランペットを構えていた若松孝輔の大声が突き刺さり、名前は肩を震わせた。
 若松は荒ぶるトランペットパートのリーダーを務めている2年生。彼はいつも、楽器が吹きやすいという理由で練習中は制服の代わりにジャージを着用している。
 名前は若松が苦手な訳では無い。外見の凄まじさに多少怯んでしまうだけだ。若松もそれを自覚しているため、敢えて名前に謝ったり弁解したりする事は無い。

「苗字先輩、ちす!」

 若松の隣で曲練習をしていた火神大我は、少し遅れて元気良く体育会系を匂わせる挨拶をした。
 火神は過去に氷室と同じマーチングバンドに所属していた帰国子女で大型新人トランペッターの1年生。
 彼も練習着として上下ともにジャージを身に付けている。トランペットを持っていなければ、確実に運動部と間違えられるだろう。

「若松くんと大我くんだけ? …大輝くんは?」
「青峰は今日も休みだとよ!!」
「…そっか……」

 トランペットパートは若松と火神ともう一人、青峰大輝という中等部出身のトランペッターの三人で構成されている。
 青峰は練習の出席率が非常に悪い新入生で、名前はまだ一度も彼に会った事が無い。仮入部期間はシルバーのトランペットを所持して参加していたらしいのだが、フルートの仮入を一人で受け持っていた名前は見に行く時間が作れなかった。

 青峰の名前が上がると、明るかった火神から笑顔が消えて怒りの感情が滲み出た。

「た、大我くん…」
「……すんません。アイツ、サボってばっかなんで気に食わなくて」

 火神と青峰は犬猿の仲だとリコから聞いた事がある。名前は軽く口に出してしまったのを反省して、話を反らせようと明るく振る舞った。

「あ…あの、若松くん。そこのメロディー迫力あって良いんだけど、もっと音を優しくね!」
「あ? おう…」
「大我くんは…弱奏部分をもう少し意識してみて!」
「ウッス」

 彼らは頷いて、再び楽譜に集中を戻した。
 ここに青峰がいたらチューバパートのように喧嘩になっていたのだろうか。最悪の事態を想像して、名前はゾッとする。

「それじゃ、失礼します」

 笑顔を繕い、ドアをそっと閉めて巡回を終える。聴こえてきたトランペットの音色は巡回前と変わらず──綺麗なのに何処か刺々しかった。








***


▼トランペットパート

・中音域を担当
・3人構成(若松、火神、青峰)
・パートリーダーは若松


▼今回の登場

≫若松孝輔(トランペット)
高等部2年。青峰に手を焼く苦労人なパートリーダー。

≫火神大我(トランペット)
高等部1年。アメリカ帰りの帰国子女。マーチングの経験あり。青峰と仲が悪い。


 気分や性格が音に表れるのは、よくあるみたいですね…! 怒りにまかせると……どっせーい!←

 話にあまり関係ありませんが、若松君と火神君の楽器カラーはゴールド設定、青峰君の楽器カラーはシルバー設定です。ちなみにサックスパートは森山君のテナーだけシルバー設定、その他はゴールド設定になっています。余談すみません…!


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