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カズナリルート





「よーし、始めるよ! 私はカズナリルートさえクリア出来れば良いからさ!」

 堂々と言った後、名前は無駄に良い声で『オレはシンタロウ。今日から新しい学校へ通い始める』と画面の文字を丁寧に読み上げた。




 物語は、主人公であるシンちゃんことシンタロウが男子校へ転入してくるところから幕を開ける。
 シンちゃんは本物の真ちゃんみたく性格に難ありで、なかなか友達が作れずにいた。そんな時、席が隣だったカズナリという少年が、一人でいるシンちゃんを気にして話しかけてくる…って感じの流れ。
 ボーイズ・ラブゲームっていっても、始まりは思ってたより普通だった。

「あ、選択肢だ。高尾ちゃんと緑間くんの出番だよ!」
「選択肢…とは何なのだよ」

 お…真ちゃん、結構やる気じゃね?

 画面では、カズナリがにっこり笑ってシンちゃんに話しかけていた。


「シンタロウくん、一人? 良かったら一緒にご飯食べようぜ! なーんてな!」


 …そっか、シンちゃんの台詞を選べば良いんだな。いかにもゲームっぽい。
 名前のクリックで3つの選択肢が出てきた。画面を見て、オレは思案する。


A.オレなんかで良ければ
B.うるさい奴だ、……ありがとう
C.オレを誘うなんて友達いないんだな



 Aは無難だな。Bはマジでツンデレっぽい。Cはねぇな…シンちゃんも友達いねーし。ここは、ちょっとウケを狙ってみるのも良いかも知れない。

「どれにしよっか?二人とも」
「B!」「C」

 オレと真ちゃんの声が被って、お互いの顔を見合う。

「真ちゃん? 何でCなんだよ」
「お前は何も解っていない」

 真ちゃんはフッと短く息を吐いて、眼鏡のブリッジを持ち上げた。

「これは男性同士の恋愛が目的のゲームだ。変に愛想良くしてみろ。一気に流れを持っていかれるぞ、ソッチの方向に」

 オレは全てにおいて納得した。さすがエース様。ちゃんと考えての選択だったんだな。

(思案なんて、始めからするもんじゃなかった!)

 オレは名前からマウスを奪った。名前が頬を膨らまして文句を言い出したけど、気にしない。
 カズナリ、せっかく誘ってくれたのにすまないのだよ。Cを選ぶ!


「はは! シンタロウくんおもしれー事言うのな! 照れんなって〜! あ、シンちゃんって呼んで良い?」

親密度がアップしました。






 何でだよ。

 ……どうやら無難にいった方が良かったみたいだぜ、真ちゃん。乾いた笑顔で見たら、真ちゃんの目からハイライトが消失している事に気付いた。

「奴にまんまとやられたのだよ……!!」
「カズナリのせいかよ!? まあ、これはかなり厄介だよなー…」
「イベントシーンゲットぉぉぉ!」
「「名前黙れ」」


「オレ、カズナリっていうんだ。困った事あったら、いつでも言えよ?」
『あ、ああ…すまないな…』



 結局、シンちゃんはカズナリと昼食を食べて親密度をがっぽり上げた。

 何なの、このクソゲー。








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