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ゲームしよう




 進級して初めての休日、部活はオフ。オレと高尾は名前の家に呼ばれていた。
 ただのクラスメイトだったらゆっくりしたいからと断っているところだが、名前だったら話は別だ。

「何だろうな〜。名前からお誘いだなんて」

 自転車を漕ぐ高尾の声がいつにも増して上機嫌なのは気のせいでは無いだろう。
 名前は、部活をしているオレ達に気を遣って自ら遊びに誘う事は滅多に無い。だから、オレも密かな期待に胸を膨らませている。









「いらっしゃーい! 待ってたよ!」

 インターホンを鳴らすとすぐに名前は出てきた。脇にノートパソコンを抱えている。

「名前、ネットでもやってたの?」
「ゲームをインストールしてたんだ! これから二人とやろうと思って!」

 ネットゲームをするためにオレ達は呼ばれたようだ。

「さあ、私の部屋に行こう!」

 名前のそのニヤけ顔に、意味は無いと信じたい。




「オレ、真ちゃんがネットしてるところ想像出来ない」
「調べものには使うが、ゲームなどには使用した事が無いな」

 名前が遅くも速くもないタイピングでパソコンを操作している間、オレと高尾は用意されたお茶を飲みながら準備が終わるのを待っていた。名前がいる手前、ゲームに対しての否定的な言葉はなるべく使わないようにする。

「ま、オレが教えてやっから安心しろよ!」
「お前に教わる事など無い」
「にゃにおう!?」
「…よしっ! 準備完了っ!」

 名前の明るい声に、オレ達の会話が途切れた。いったい何のゲームなのだろう。

「始めよう! ボーイズ・ラブゲームを!」


 高らかに宣言した名前に、頭の中が真っ白になった。

 高尾に目で問いかける。「やった事ねぇよ、そんなの」と弱々しい声が返ってきた。目が死んでいる。オレは、やる前から帰りたい衝動にかられてきた。

「高尾ちゃんと緑間くんと遊ぶの、楽しみにしてたんだー! すぐにインターハイ予選だし、休日にのんびり会えるのなんて少しだけだから」

 オレ達が言おうとした文句は、名前の切なげな表情を前にして全て消え失せてしまった。

 思えば、そうだ。今年のインターハイでは去年溜まりに溜まった借りを返さなければならない。こんな風に遊べるのも今のうちだ。
 そういう事なら仕方無い。やってやるのだよ、名前のために。一緒にいる時間を大切にしよう。


 名前を挟んで高尾と座り、画面を覗く。

「…何故主人公の名前がシンタロウなのだよ」
「カズナリってキャラクターはもういるからね。緑間君の名前を登録しました!」
「うげっ…オレと同名のキャラいんのかよ。めっちゃ複雑」
「今すぐナマエに改名しろ」
「主人公は男の子だよ!?」

 新規スタートの文字がクリックされ、ゲームらしいBGMが流れ出す。
 オレの人生初めてのネットゲーム、波乱の幕開けだった。








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