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眼鏡破損劇




グシャリ…


「……」
「真ちゃん? ……あ」

 真ちゃんが、朝練で眼鏡を踏んづけて壊してしまった。









 現在、オレは真ちゃんの腕を引きながら教室までの道を歩いている。

「た…高尾…」
「大丈夫だって。はーい、教室着いたぜー。足元気を付けろよ?」
「ば、馬鹿にするな…」

 まだ名前は来ていなかった。助かった。こんなオレ達見たら卒倒するからな、あいつ。

 名前の席を借りて真ちゃんに話しかける。眼鏡が無い真ちゃんは本当に何も見えないから、オレに上手く目線が定まってない。

「……? 高尾?」
「名前、まだ来てないみたい」
「そうか…」

 真ちゃんはぼんやりと前を向いた。うわー…目付き悪すぎ。女子が恐がってるよー真ちゃん。更に悪い顔になりそうだから言わないけど。

 オレが自分の席に移動しようとしている時に、名前が駆け込んできた。

「おはよ!」
「おはよー名前」
「ん? 名前? 来たのか?」
「緑間くん! あれ? 眼鏡は?」

 挨拶して事情を話すと名前の表情が悪戯っぽい笑顔に変わった。あ…絶対何か企んでる。

 名前はオレの近くに寄り、素早く手でオレの口を塞いだ。

「ん…っ? んぐぐぐぐ!!」
「少し黙ってて、高尾ちゃん」

 名前の顔が超近い。え、何すんの。真ちゃんは目付きの悪い顔のままオレ達の方を向いた。

「名前…高尾? 何をしている?」

 真ちゃんには見えていないみたいだ。言われた通り黙っていると名前は真ちゃんに向かって口を開き……

『べっつに〜? 何も無いぜ、真ちゃん!』

 …オレの声を真似て喋った。
 前にカラオケ行った時随分低い声出すと思ってたけど…こんな事まで出来るとはね。

「ならうるさくするな、高尾」

 すげえ…真ちゃん騙された。それ程までに名前の声真似は完璧だった。
 名前はオレに「大成功!」と小声で言う。オレの腹筋は崩壊寸前。

「名前…この後どうすんの…?」
「私に任せて!」

 名前の声と担任が入ってくる音が重なった。任せるって…何を任せれば良いんだろう。
 横顔がニヤけている。嫌な予感しかしないけど、笑いを堪えるのに必死なオレはそれどころじゃない。

 真ちゃんは空気を読み取ってタイミング良く号令をかけた。朝のSHR、スタートだ。




『真ちゃん、』
「何故高尾が隣にいるのだよ」
『名前と席交換中。急に担任入ってくるもんだからさ〜』

 名前は声真似で真ちゃんと会話を始めた。オレは机に突っ伏して声を出さずに大爆笑。
 やばいよ。真ちゃん、名前の机に置いてある鞄に話しかけてるよ。

『……真ちゃんの隣って良いよな』
「いきなり何なのだよ」
『横顔ずーっと見てられんじゃん…。名前が羨ましい』
「「……」」

 哀愁漂う名前のガチ演技に、オレの笑いが失せた。

「……高尾、何か悪いものでも食べたのか」
『真ちゃん…今日も綺麗だ。ああっ、好きだよ真ちゃん……真ちゃんの事考えるだけで、オレ「騙されんな!!! 真ちゃん!!!」

 机を割れるくらい強く叩いて立ち上がる。倒れる椅子もお構い無しで、オレは真ちゃんに叫んだ。
 真ちゃんは目線が定まらないまま、本物のオレの方へ顔を向ける。良かった……真ちゃん、オレに気付いてくれた……。

 オレは安堵した。今がSHR中だという事も忘れて。









「名前…反省してっか?」
「してます。高尾ちゃん、本当にすみませんでした…」

 教室の床に正座して反省の意を示す名前を、腕組んで見下すオレ。

 オレの声を利用して真ちゃんにアタックした事は100歩譲って許すとして……。
 何でオレだけ担任に叱られなくちゃいけねぇんだよ。何でオレだけクラスメイトから痛い視線を送られなきゃいけねぇんだよ!!

 名前は、進級して一段と回避スキルの腕に磨きをかけていたようだ。畜生、オレに全部罪なすり付けて担任に媚び売りやがって!!

「あのな、新しいクラスで新しい友達作りたいのオレは。変な奴のレッテル貼られちゃ困んだわ」
「高尾ちゃん!! 友達は作って良いけど、二股はダメ絶対!!」
「反省してんのかゴルァ」
「してます!! してますっ!! ごめんなさいぃっ!!!」

 まあ、オレの性格なら誤解解くのは簡単だろうから心配無用だけど。
 もうすぐ1時限目が始まるから、真ちゃんに今日の分の授業ノートを全教科貸す条件付きで名前を解放してやった。
 ペコペコ頭を下げるレアな名前を見れたからちょっとラッキーだったかも。

 真ちゃんは、いつもの癖なのか今は無い眼鏡のブリッジを上げるような仕草をしていた。

「全く…少しは自重するのだよ」

 真ちゃん…さっきからお前が睨んでるソレ、名前の鞄だからな? いい加減気付けよ。








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