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トレーディングカード




「高尾ちゃんってトレーディングカードが趣味なんだよね?」
「あー、うん。それがどうかした?」

 昼休み。オレは食後のお汁粉を飲み干し、名前と高尾の話に耳を傾けた。名前曰く、被ってしまったカードがあるから高尾にもらってほしい、との事。

 先日の自己紹介で名前はオレ達の事を沢山知った。特技、誕生日、血液型、もちろん趣味も。
 高尾のトレーディングカード収集は進級しても健在だった。

「マジで! くれんの? サンキュー!」
「待ってね! 今出すから!」

 オレはそういう類いに興味が無いので解らないが、名前も持っているらしい。意外だ。トレーディングカードはてっきり男だけがやるものだと思っていた。名前がやると言うのなら、オレは考えを改めなければならない。

 名前は鞄に手を入れカードらしきものを取り出し、高尾に差し出した。

「はい、どうぞ!」
「……」
(……高尾?)

 高尾の期待感溢れる目が一瞬で冷淡な目に変わった。ギギギ…と効果音がつきそうなくらいのかくかくした動きで高尾は顔を上げる。
 名前が高尾に渡したのはピンク色のカード。……ん? ピンク? 高尾の集めているカードの色とは違う。あれは、いったい……

「名前!! 何だよコレ!!」

 高尾が立ち上がって名前にカードを突きつける。そこで解った。高尾が冷めた理由が。

「激レアなんだよ! そのカード!」
「いらねーよ!! こんなの!!」

 高尾の手にあるカードには、男同士のキスシーンが描写されていた。




「…このトレカのタイトルロゴって、どっかで見たような」
「ツンハイだよ! 今月から深夜枠でアニメ化されてね〜、もうトレカが発売されたんだ! にっふふー!」
「ツンハイ…? 何だそれ。靴下?」
「高尾ちゃん忘れたの!? 『ツンデレ眼鏡男子とハイスペック男子』!」

 忘れはしない。1年の時名前が授業中に読んでいた、男性同士の衝撃的恋愛漫画だ。
 あんな汚物作を商品化する奴等の気が知れない。そして、未だにそういうものに手を出している名前の気が知れない。
 オレはついに口を挟んだ。

「名前…まだそんなものを見ていたのか」
「緑間くん…?」
「オレと高尾がいるだろう」

 強く睨んでみたが、効果無し。名前は悪びれも無く笑っていた。

「この作品は特別! 前にも言ったけど、ツンハイの主人公二人は高尾ちゃんと緑間くん似なんだ! しかも、声優さんの声まで二人に似てるの! 何だか、ずっと二人と一緒にいる気分になれるのさ!」

 それから、名前は「でも一番は高尾ちゃんと緑間くんだよ!」と続けた。

 苛立ちが、失せていく。
 オレ達自身の事なのか、オレ達の組み合わせの事なのかはっきりしなかったが、嬉しさが込み上げる。冷静になった途端、自分はどれだけ恥ずかしい発言をしたのだろうと後悔した。
 高尾は片手で顔を押さえて熱を冷ましている。名前はこういう事には疎いので気付かない。オレも照れ隠しで名前の頬をつねってやると、蛙が潰れたような声を出した。本当に女か貴様。

「高尾、そのカードを寄越せ」
「真ちゃん正気かよ!?」
「お汁粉を飲み終わったからな。ゴミ捨てついでに焼却炉へぶち込んで来てやるのだよ」
「うわぁ!! ごめんなさい!! やっぱり保存用にとっておくから返してーっ!!!」

 今年度も相変わらずだ。高尾の趣味も、名前の悪趣味も、この馬鹿女に惚れるオレの恋心も。








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