Main | ナノ



初めての引率





 今日は秀徳高校の身体計測の日だ。オレ達は係でいなくなる保健委員の代わりにクラスの引率をしなければならなくなった。
 女子は名前が引率、男子は真ちゃんが引率する。オレはバックレようとしたんだけど…真ちゃんに言われ一緒に先頭に立つ事になった。寂しいならそう言っての…素直じゃねぇなホントに!

「引率かぁ…やだなぁ…」
「名前なら大丈夫っしょ」
「高尾ちゃんと緑間くんが胸囲を計りあうところ拝めたかった…」
「待てよ胸囲測定なんてねぇからな。あったとしても計りあわねぇからな」
「そもそも男女別行動なのだよ」
「……着いて「「来るな」」

 体操着姿でブーイングする名前を軽くあしらい、真ちゃんと移動順の最終チェックをする。男子だけとはいえ、クラスを引っ張るんだ。仕事全うしないとな。




 朝のSHRを終えると、担任からオレ達に進行が移った。オレと真ちゃんで全員に注意事項を説明してから、男女を分けて列を作る。ここまでは完璧。

「それじゃ、行こうぜ!」
「ああ」
「また後でね!」

 オレ達男子組と名前達女子組は教室前の廊下で別れた。









 教室を出て、数十分が経つ。

「高尾。人数を数えろ」
「はいよー…1、2、3……って、足りねぇじゃん!!」

 最悪だ。移動中に男子が何人か消えた。うっかり置いてきたらしい。
 真ちゃんの気遣いの無さに呆れる。せっかく部活ではチームプレー出来てきたのに…!!

 「すぐに連れ戻せ」、真ちゃんからの命令が下った。オレは文句を言ったが逆らえず。

「…しょうがねぇなあ!!」

 廊下は人で溢れ帰っている。真ちゃんとクラスメイト達を壁際に寄せ、オレは一つ前の測定会場へ向かった。






 会場は全クラス終わったのか、既に片付けが始まっていた。オレのクラスの男子達はいない。見事な入れ違いだ。
 真ちゃんのところに戻ろうと踵を返した時、人がごった返す廊下の突き当たりからオレを呼ぶ声がした。

「高尾ちゃん!」

 目を凝らしてみると、ジャンプしながら手を上げている名前を発見。オレは人を掻き分けながら名前の元へ走った。

「やっと見つけたっ!」
「どした? ……あ」

 女子は名前一人。名前の後ろには、はぐれた男子達がいる。
 名前は、合流させようとオレと真ちゃんを探していた、と手短に説明した。

「名前お手柄! …女子は?」
「さっき教室に戻ってもらったよ。もう終わったからね!」

 ブイサインを作る名前に感服。名前の引率力は想像以上だった。
 それに比べて、オレは…いや、オレ達は……


「高尾ちゃん…緑間くんに用事あるから、私も連れていって!」

 名前が、オレの背中を優しく叩いた。当たり障り無くオレを励ましてくれているんだろう。真ちゃん並みに鈍感なくせに少しの落ち込みも見逃さない……さすがだ。
 男子達に冷やかされるの覚悟で手を握る。名前は目をパチクリさせた後、ふんわり笑った。









「真ちゃーん!」
「みっどりっまくーん!」

 名前と男子達を引き連れてクラスに合流。真ちゃんは名前を見て驚いた顔をした。繋いでいた手を睨まれ、渋々離す。
 名前は記録表の事をいくつか訊ね、「教室で待ってる」の一言と共に去っていった。

「女子はもう終わったのか……」
「負けらんねぇよな、真ちゃん?」
「ああ」


 それからの進行はスムーズだった。真ちゃんは、今度は後ろと人数をちゃんと気にしてる。名前に会えたのが良い刺激になったみたいだ。

 早く終わらせて名前の待つ教室へ帰ろう。単純なオレ達は、そんな目標を立てて最後まで頑張った。








[*prev] [next#]
[mokuji]