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 ウインターカップが終わって、先輩方が引退して…あっという間だった。







 桜の蕾が膨らんできて春らしくなってきた今日この頃。教室の中は静かだ。進級しても頑張れとか、言われなくても解ってる担任の話を聞き流しながら溜め息を吐く。
 前座席にいる名前は退屈そうにうつ伏せ気味。後ろ座席の真ちゃんは見えないけど、明るい気分で無い事ぐらいは解る。
 
 学年末テストがあった関係で、最終的にオレ達三人はバラバラの席になった。昼休みはよく一緒に過ごしたけど、授業中に手紙を回したり自習時間に喋ったりする機会は少なくなっていった。

(もっと一緒にいたかったな…)

 そう思っても、時間は戻ってくれない。


 今日で1年のクラスが終わる。皆、バラバラになる。
 クラス替えの時、仲が良すぎる奴や悪すぎる奴は必ず別々になると聞いた事がある。真ちゃんとは部活が一緒だから毎日のように顔会わせるけど…名前とは会うの難しくなるだろうな…。
 進級を前向きに考えてるクラスメイトが多い中、オレは少し残念に思っていた。…このクラスとの別れを。













「はぁー」
「うるさいのだよ、高尾」
「何も喋ってねぇだろ!」

 進級した、最初の朝。オレと真ちゃんは一緒に登校して、新しいクラス表の紙をほぼ同時に手にした。

 ……手にしたは、良いけど、

「高尾どうした、早く見れば良いだろう」
「…真ちゃんこそ」

 オレ達は新しいクラスを見るのを躊躇った。真ちゃんも考えてる事はオレと同じみたいだ。

「……名前と、同じクラスが良いよな」
「ああ」
「まっ、離れても会えるか!」
「そうだな…」

 真ちゃんと頷き合って、紙を見ようとしたその瞬間────





「高尾ちゃん! 緑間くん!」

 誰かの腕に引っ張られたオレ達は、後ろにのけ反った。こんな力強くて、オレの事をちゃん付けする女なんて、あいつぐらいしかいない。

「痛ぇーよ! 名前!」
「どうしよう! どうしよう!」

 興奮気味の名前がドリブルされたボールのごとく跳ねまくっている。
 どうしたのか訊くと、名前は輝く笑顔をオレ達に向けて、叫んだ。


「私達…三人とも同じクラスっ!」


 名前の手には、握り締められてぐしゃぐしゃになったクラス表。
 オレと真ちゃんはすぐにクラス表を見た。今度は何の躊躇いも無く。



 喜びに、心を踊らせながら。








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