Main | ナノ



腐女子の運命




 ……運命だと思った。

 隣の席に高尾くん、そしてその前に座る緑間くん。
 ああ…やっぱりこの二人は赤い糸で結ばれているんだね!




 私は苗字名前。高尾くんと緑間くんと同じクラスに在籍する、秀徳高校の女生徒。
 私が二人の関係にときめいたのは、クラスが始まって一ヶ月くらいの頃だったと思う。

 当時の私はすでに男女で恋をするなどと言う正常思考は持ち合わせておらず、アニメや漫画にしか興味が無かった。そのため現実世界のイケメンなどと呼ばれる部類も理解出来なかった。あの二人も、最初はどうでも良かったんだよね。
 だから私があのラブラブカップルを発見したのは、緑間くん風に言うなら運命なのだよ! …なのだよっ♪









 ある日、私は日直の仕事があり早めに家を出た。その時間がちょうど運動部の朝練登校時間とブッキングしていたのである。

「…あー重い!!」
「お前が負けたからだろう」
「くっそ…」

 男子二人の会話が聞こえてきた。こっちに向かって来ているのか、どんどん近付いてくる。
 うーむ、この声はどこかで聞いた事あるような…。印象的な美声だなぁ…。

 歩く速度を遅めて、様子を窺う。すると、目の前に奇妙な乗り物が現れた。キキィッとブレーキ音が響く。

「!!!?」
「わっ! ごめん!!」

 何だ…自転車に、リヤカー?
 自転車にまたがって息を乱している黒髪男子と、その後ろで呑気にお汁粉を飲んでいる眼鏡男子。鬼畜プレイか何かの最中だったのかな?

「高尾がぼーっとしているからなのだよ」
「悪かったって!」

 ……さっきの会話は、もしかしてこの黒髪男子と眼鏡男子?

「ねぇ!」

 俯いて考え込んでいると、黒髪男子が私に声をかけてきた。

「はい…」
「…って苗字名前ちゃんじゃん! 怪我無かった? 大丈夫?」
「うん。…?」

 何で私の名前知ってるのかな…。向こうが知ってるなら私も知ってるはず…。

「…っえ、えっと…オレの顔に何かついてる?」
「あっ、ううん、ごめんね?」

 いけないいけない、思わず見つめてしまった。誰だっけ…。見覚えが…。
 さっき眼鏡男子が高尾って言ってたよね?高尾…高尾…

 思い出した。クラスメイトの高尾くんだ。もう一人は…、緑間くんだっけ。特徴的な苗字だから覚えてる。緑間くんの趣味だろうか、ものすごく大きなぬいぐるみ抱えてるんだけど。

 …あれ? 何だか高尾くんの顔が赤いような…。
 高尾くんはその赤い顔で緑間くんを見た。

「真ちゃんは大丈夫だった?」
「お汁粉がこぼれたのだよ!」
「え! 悪かった…オレのタオル使って?」
「…すまない」
「お? デレたぁ?」
「断じてそんな事は無いのだよ!」

え、え、え、
何、この会話───…



これは…






 ツンデレだあああ!!!

 しかもレベルが高すぎるよ緑間くんは! ツンデレ眼鏡っ子、お汁粉と言う和風チョイスに下睫毛、ぬいぐるみ好き(仮)! これはもう…いろんな萌え要素含みまくり!!
 高尾くんも! 良い感じに弄ばれるところもあれば、緑間くんの性格を理解してしっかり主導権を握ってるところもある! しかも切れ長の目に赤面もプラス!! こっちもかなり萌え数値は高い!


(…はっ!)

 そこで私は気付いてしまったんだ、この二人に対するときめきに。

 高尾くんは緑間くんの事が…!? 緑間くんにも照れた感がある!!
 優しさ満点笑顔満点のハイスペック男子と長身ツンデレ眼鏡男子のコラボレーション!!

 もしかして漫画やアニメを超える最高な組み合わせなんじゃないのかな、この二人って…。このスイートな興奮は…間違い無いよ!!

「わ、私先行くね!」
「お、おー!またな!」

 仲良く一緒に登校して、心配してタオル貸しちゃって、ツンデレっちゃって照れちゃって!!

 はじめまして、今世紀最大級の萌え!!!


 私は今クラスで保っている自分のキャラクター(純粋な女の子)を壊したくなくて、ニヤける代わりに思いっきり笑顔を作って逃走した。
 本当に不覚だった。自分の次元にこんなに素晴らしいカップルが存在してたなんて。しかも同学年同じクラスに!

 それから、私は二人のラブラブ関係に完全にはまってしまったのだった。もう画面の向こうがどうとか言ってる場合じゃない。こんなカップルが近くにいるんだ。応援しなきゃ!!



「(わわ、笑顔やべぇ!) 名前ちゃんに見つめられた! 緊張して目そらしちまったよ、真ちゃん!」
「どうした? 高尾、早く漕ぐのだよ」




fin.








[*prev] [next#]
[mokuji]