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 今まで生きてきて、現実世界で告白なんか……された事無かった。

















腐女子とオレ達の結末

















「学校行きたくないなぁ…」

 今日は両親が早くに出掛けてしまったから私ひとりの朝だ。私の溜め息は誰にも届く事無く消えていく。

 高尾ちゃんと緑間くんの事を考えると心の痛みがギリギリと私を襲った。私が一番に望んでいたのは、あの二人が二人だけで幸せになる事だった。高尾ちゃんと緑間くんが近付いて、それを傍観するだけで良かった。…それなのに。

「……」

 解ってる。現実世界で恋をするとしたら、あの二人しかいない事。でも、どっちも拘束するなんてアニメやゲームの世界の中だけの話だ。二人の告白で現実を知った私は、ちゃんと正しい選択をするつもりだから。

「……選ぶね」









 どうしても気分が乗らなかった私は午後になってから学校へ行った。

「あ…名前」
「……苗字」
「お、おはよー!」
「もう昼なのだよ」

 初めて後悔した、この席順。高尾ちゃんは真横から、緑間くんは斜め前から、責任を感じたような顔で私を見てる。二人のせいじゃないよ。大丈夫、もう答えは決まってるからちゃんと返事をするよ。

 高尾ちゃんがルーズリーフの端にペンを走らせて、私の机にそっと置いた。『部活終わるまで待っててほしい』の文章の下には私が遅刻した事を心配してくれるメッセージ。
 高尾ちゃんの優しさが今の私には辛い。心が絞まる音がした。









 放課後、私は教室に残って緑間くんが貸してくれたノートを写していた。私よりずっと綺麗な字だ。男の子なのに……あ、偏見だね。

 空が暗くなって、様々な運動部が帰っていくのが見える。バスケ部ももうそろそろ終わる頃だ。

(大丈夫)

 私は教室を出た。高尾ちゃんと緑間くんの席を一瞥して。






 ほとんどの教室が消灯されている中、バスケ部のロッカールームは光が洩れて明るくなっていた。

「名前、」
「すまない、待たせてしまったな」

 制服姿の高尾ちゃんと緑間くん。私を見つけて近くまで来てくれた。私は緑間くんにノートを返す。
 お礼を言う時、ちゃんと目が見れなかった。緑間くん、ごめん。









「温かいお汁粉なのだよ」
「ありがとう」

 緑間くんは私に缶を手渡して、右隣に腰掛けた。左隣には高尾ちゃん。私の通学路途中にある公園のベンチは、三人で座っても充分余裕が残る。
 お汁粉が私の体をぽかぽかと温めてくれる。心の痛みが少し解消された。

 蛍光灯の光が私達を照らしてる。静かだ。遠くから電車の通る音が聴こえる。

「……昨日の事だけど」

 私が口を開くと二人は動いた。頭上から視線を感じる。

 返事をする前に、確認しておきたい事がある。今まで仲良くしてもらってた二人にはすごく失礼なんだけど、教えてほしい。

「あれは、本気?いたずら?」
「オレも高尾も、本気だ」
「当然っしょ」

「私がどちらを選んでも、今まで通りでいてくれる?」
「もちろん。フラれたら超悔しいけどな……友達としてでも名前の側にいる。それだけだぜ」
「オレもだ。……たとえ選ばれなくても、苗字の事を嫌いになるなど有り得ん。心配するな」

 左右交互に二人の表情を伺った。高尾ちゃんの目も緑間くんの目も、真剣に私を捉えている。

 それを聞いて、安心したよ。これで私は選べる。


高尾ちゃん、緑間くん。


「私は─────」

















「名前、おはよ!」
「おはよっ! 高尾ちゃん!」

 遅刻ギリギリで教室に飛び込むと、高尾ちゃんの笑顔が私に向かって輝いた。

「これから席替えだってさー…名前と離れんの寂しすぎ…」
「クラス離れる訳じゃないから大丈夫だよ!」
「だよなー! 席は離れても心は離れねーよな!」
「もちろん!」




「高尾、堂々と彼氏面するな。見苦しいのだよ」

 そこに緑間くんの低めな声が割って入った。

「大丈夫だよ! 高尾ちゃんは私の彼氏じゃないもんね!」
「言うなよ!」
「ふん…」
「ちょっ、真ちゃん何笑ってんだよ!! お前だって名前にフラれたくせに!!」
「名前、今日のオレのラッキーアイテムはブレスレットなのだよ」
「素敵ー! 似合ってるよ緑間くん!」
「聞・け・よ!!!」


 あれから数日。私と高尾ちゃんと緑間くんは普段通り過ごしている。
 緑間くんから下の名前で呼ばれるようになったり高尾ちゃんとのスキンシップが増えたり少しの変化はあったけど、それ以外は本当にいつも通りだ。
 私の人生最大の同時告白イベントだった訳だけど……二人とも断った。私にとって二人は同じくらい大切だから、どちらかを彼氏って特別扱いしたくなかったんだ。
 こんな選択をしたけど高尾ちゃんと緑間くんは仲良しのまま。ああ…これも二人の信頼関係が……

「にふふ…」
「何だよ気持ち悪ぃな!」
「高尾ちゃんひどいよ!」
「高尾、早く席替えのくじを回せ」

 二人がお近づきになるのを見ると相変わらずにやけてしまうけど、それはそれで平和な日常だよね。
 この席とお別れしても、私は二人と仲良く出来ると信じてるよ。










「……運命だと思った」
「…オレも」
「そう言わざるを得ないのだよ…」


 今日、朝のSHRで席替えをした。
私は後ろ側の席を獲得。黒板は、よし、ギリ見える。私、身長も座高も低いからなぁー…。

で、今回も左隣の高尾ちゃん。そして右隣に緑間くん。私が引いたのは、なんと二人の間の席だったのだ。
 前の席替えとは違った幸せが私の中に広がっていく。

「はは…超嬉しい! 名前と連続で隣!」
「またしばらく一緒だな、名前」
「うん! よろしくね!」

 両側から差し出された手を、握り返す。
 本当はこの二人の手を引っ張って繋ぎ合わせたいけど、今はこの曖昧な距離で私は大満足だよ。


 席替えから始まった私達の関係は、これからも続いていく。





fin.








***


当サイトの初連載、ついに完結いたしました! 『腐女子とオレ達の見解』、いかがでしたでしょうか…? 応援のメッセージなどもいただけて本当に嬉しかったです! ここまでお付き合いくださった全ての皆様に感謝いたします! ありがとうございました!
本編はこれにて完結ですが、番外編やアフターストーリーなど更新していけたら良いなと思っております。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします!

(2013 01/01〜04/13)


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