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恋敵




 廊下に授業終了のチャイムが鳴り響いた。

「あー…間に合わなかったね。同じ班の二人に謝らなくちゃ」
「そうだな。とりあえず、一旦家庭科室に戻……」
「どうしたの? 緑間くん……あ、高尾ちゃん!」
「よっ、二人ともお帰り」

 家庭科室に戻る途中で高尾に会った。高尾の手にはオレ達の荷物と、調理の完成品三人分がある。持ってきてくれたのか…。

「先生超心配してたぜ? あとで職員室に顔出せってさ」
「ありがと! 高尾ちゃん、優しいね」
「気にすんなよ、これくらい」

 苗字は多分気付いていないが、高尾の目が笑っていない。オレと苗字が二人で出て行ったからか…。嫉妬するほど苗字が好きなのだろう。やはり、高尾は侮れん。









「はー…やっと制服乾いたね…。緑間くんどうする?」
「もうすぐ放課後だからな。このまま部活に参加するのだよ」
「そっか! 私は着替えて来よっかな!」


 苗字がいなくなると、必然的にオレと高尾は二人きりになる。
 気まずい空気が流れ出した。重い雰囲気を壊す方法が、オレには思い付かない。

「真ちゃん、」

 背後から、オレを呼ぶ声がする。高尾のいつになく真剣な声。振り向くのが恐い。

「オレ、名前に告白しようと思ってんだけど……どう?」


 静かな声だった。
 オレはゆっくり首を回して、高尾と目を合わせる。頬杖をついて自信ありげに笑う高尾に、怯む自分が情けない。
 苗字が奪われる。本気でそう思ってしまった。

「我慢の限界なんだよ。名前に好きって言いたい」
「…だが、あいつは」
「名前の眼中にある男ってオレと真ちゃんだけじゃん。どちらかが告白したら…ひょっとしちゃうんじゃね?」
「……」
「これ以上、真ちゃんに名前触らせたくねーし」
「…っ」

 これは軽い挑発だ。本当なら乗りたくない。だが、相手が悪すぎる。高尾は苗字が受け入れてもおかしくない男だ。
 奴の言う通り、苗字と恋人関係になるチャンスがあるのはまずオレ達しかいない。

 それなら……オレも心を決めよう。


「抜け駆けは許さん。オレも伝えよう、苗字が好きだと」
「プッ、ちゃんと好きって言えるようになったんだ! 成長したねぇ真ちゃん!」
「なっ、何なのだよ!」
「あははっ、別に?」

 オレ達が普段通りのテンションを取り戻したところで教室のドアが開いた。
 セーラー服姿の苗字がこちらに歩いてくる。向かい合っているオレと高尾を見て嬉しそうだ。

「真ちゃん、さっきの言葉忘れんなよ?」
「ふん、お前もな」
「ちょっ…何で私がいない間に二人誓い合っちゃってんの!!!」
「「……」」
「結婚式は行くからね?」

 こんな性格でも大好きだと思える女だ。
 宣戦布告を受けて立つのだよ、高尾。








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