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ラッキープレイス





「真ちゃんてさ、絶対カラオケ慣れてないっしょ」
「ああ。うるさくて嫌いなのだよ」
「それ誘っといて言う!?」

 休日、真ちゃんとカラオケにやって来た。理由は簡単、今日の蟹座のラッキープレイスがカラオケボックスだから。まあ、たまには良いじゃんね。オレは中学生以来だわ。

 自動ドアをくぐると、オレ達の知っている声が聞こえてきた。

「機種は、Jサウンドで。なっ…10分待ち…? 解りました、待ちますっ!!」

「よっ! 名前」
「っわ!? 高尾ちゃん! 緑間くん!」

 やっぱり。カウンターで店員と話していたのは名前だった。周りには誰もいない。一人で来たのか?

「高尾ちゃん達もカラオケ? 緑間くん意外すぎる!」
「…悪いか」
「ぜーんぜん! 高尾ちゃんがいるところには緑間くんがいる! 私は解ってるよ、にふふ…」

 やめて名前。店員がオレと真ちゃんをめっちゃ怪訝そうな顔で見てきてるよ。ついでに真ちゃんがオレをめっちゃ睨み付けてきてるよ。
 オレはいたたまれなくなって、店員に「二名追加で」と笑顔で言ってやった。

「へ!? ダメだってば!! 私めちゃくちゃ音痴だから!! それに、二人が知らない曲ばっかりだと思うよ!?」

 手をブンブン動かす名前にざまぁみろと笑いながら、真ちゃんを見る。真ちゃんの顔は、普通の人から見たら解らないくらい少しだけ緩んでいた。

(あーあ…完全に好きになっちゃってるね、これは)

 ここは真ちゃんのラッキープレイス。確かにラッキーだよね、名前に会えたもん。オレにもラッキー分けてくれてありがとな、真ちゃん。


「苗字様、三名様ですね。お待たせしました」
「お、覚えてろよ高尾ちゃん…!!」

 名前は悔しそうに睨んでくるけど、全然恐くない。
 さあ、邪魔したからにはたっぷり名前の歌聴かせてもらうぜ!

 こうして、オレ達のフリータイムカラオケが幕を開けた。









「真ちゃん…今の感想は」
「…何も言えないのだよ」

 さっきのオレ達のテンションどこへやら。でも、仕方無いんだよ。こんな時、どうすれば良いか解らねぇんだもん…。

「───♪♪♪」

 名前の歌が、上手すぎる。


1曲目に国歌をシャウトされた時は死を覚悟した。一瞬耳が逝った。歌が下手過ぎるから一人で来てたのかとさえ思った。でも、それはただ喉を開くためだったらしい。

 今、名前が歌っている2曲目は男性ボーカルのアニソン。一応聴き覚えのある曲だ。オレでも出しづらそうな低音域を名前は男声で歌っている。女とは思えない、ねっとり絡み付く低音ボイスに、オレも真ちゃんも聴き惚れていた。

「…っはあ…やっぱ低音域は良いなぁ…。あれ、二人ともまだ何も曲入れてないの?」

 どうしよう。オレも歌唱力には自信ある方だったんだけど、これの後には歌いたくない。
 とりあえず、名前に3曲目を歌わせている間に決める事にした…けど、今度は超高音のアニメ声で歌い出したから、またオレ達は聴き惚れてしまった。名前って何オクターブの声出るんだろう。


「ちょっ…二人とも! 曲終わっちゃう!!」
「真ちゃん、せっかくだからデュエットしねえ?」
「ああ。一人で歌うよりはマシなのだよ」
「よし、決まり!」

 即刻話し合いを済ませ、曲をセレクト。何とか名前の歌終了に間に合わせた。



♪♪〜♪♪〜


 前奏を聴きながら、名前に「さっきの曲可愛かったな」と言ってみた。

「3曲目の? あれ、アダルトゲーム『あなたのピーを私のピーに突っ込んで☆』のオープニングテーマだよ♪」
「「……」」

 その後、オレと真ちゃんがそろって歌い出しに失敗したのは言うまでも無い。








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