Main | ナノ



お願い聞いて




 真ちゃん風に言うなら、意味が解らないのだよ。


 今日は名前の家で勉強会。メンバーは真ちゃん、名前、オレの三人。真ちゃんはラッキーアイテムを用意するのに時間がかかっているらしく、今オレと名前は部屋に二人きりだ。ちなみに名前の両親は出掛けていていない。先に勉強をして待つはずだった…のに。

「高尾くん…!!」
「…っ」

 何でオレは名前に組み敷かれているんだろうね?









 名前の様子がおかしいのは、家に入った時から気付いてた。いや…普段からそれなりにおかしいんだけどさ…今日は何か違くて。


「…っ、高尾くん。緑間くん遅れるんだってね…」
「ああ、そうみたいだなー」
「二人きり、だね」
「あ、あー、うん…」
「とりあえず、お茶用意してあるから部屋来て…」



…みたいな会話を真っ赤になりながらされちゃうし。そりゃ、部屋に男入れるから緊張するんだろうけど…そもそも名前には男女の恋愛とかそういう普通思考は…


 で、ベッドに座ってほしいと言われてその通りにしたら「高尾くんごめん」の一言と同時に押し倒された。
 普通は抵抗するけど、相手は名前だ。オレの好きな女だ。まあ、暴れたとしても名前が本気を出したら男の力でも敵わねえよ(怪力)。

「あの…名前、これはいったい…」
「こうでもしなきゃ、高尾くん聞いてくれないから…」

 出来れば今すぐにどいてもらいたい。そしてトイレに行きたい。勃ち始めちゃってるから。

「お願い…聞いてよぉ……」

 そろそろ理性との戦いになってきた。もう、どうにでもなれ。襲われようがナニされようが、名前だったら構わない。来い。

「わかった…名前だから、聞いてやるよ」
「高尾くん…! ありがとう! じゃあ…」

 「名前だから」はもちろんスルー。名前はすぐにオレから退いてクローゼットを漁り始める。オレは安心と落胆の気持ちでベッドに倒れ込んだ。おかげで下半身は萎えたよ、ありがとう。

「これ、着て欲しいんだ!」

 名前が取り出したのは少しサイズ大きめの女物の服。

「高尾くんの女装が見たいのさ!」

 名前は、にやーっと笑った。……オレのときめき返せバカヤロー。









 名前は、以前オレがカチューシャを付けているところを見てビビッと来たらしい。名前はやっぱり名前なんだなぁ…。

 男に二言はねぇ。早く着て早く脱いで早く終わろう。今、すげー久し振りに勉強したいって思ってるよ。オレ、えらいな。超良い子じゃね?

 オレが着替えている間、名前は背を向けて鼻歌を歌っている。手には薄い本…あれが同人誌ってやつらしい。うん、もうツッコまねーよ何も。

「ほら、これでいーだろ?」

 何か、気持ち悪いくらいサイズがピッタリだ。スカートの丈はボクサーパンツがちゃんと隠れる長さだし、ハイソックスは足を締め付けないし落ちてもこない。
 名前の目はオレを見て輝いた。この顔するのはたいていおかしい事考えてる時だけど、オレはこの表情の名前が大好きだ。

「高尾くん…いや、高尾ちゃんっ! 可愛い! 本当に可愛い! やっぱり似合ってる。高尾ちゃんは髪の毛綺麗だし、顔もシャープだから絶対似合うと思ってたんだよ! 今日つけてるカチューシャとも合うね!」

 名前がオレをここまで褒めちぎるのはこれが初めてかも。高尾ちゃん呼びとか可愛すぎっしょ。
 怒るどころか、名前が喜んでくれて良かったとか考えてるオレは相当馬鹿なんだろうね。

 その後は撮影会になり、オレはポーズとか決めちゃって。名前の笑顔がオレに向けられてるなら、もう何でも良いやって思った。









ピーンポーン


「「あ…」」

 真ちゃんが来た。オレは慌てて元の服に手を伸ばす。オレの隣では名前が慌てていた。

「わ、私、緑間くん引き留めとく! 5分くらいあれば大丈夫?」
「え? ああ!」

 名前は、真ちゃんにも見せようとは言わなかった。いや、見せられたら絶対嫌だし死ぬけど。

「名前」
「ん? 何っ?」
「その写メ、真ちゃんに見せんの?」
「まさか! これは私の宝物だもん。誰にも見せないよ! こんな可愛い姿を知ってて良いのは私だけさ!」

 はっきり発言を残して名前は扉を閉めた。

「……ちくしょー」

 オレをときめかせてるなんて、名前は思ってもいないだろう。名前の方が可愛いっつーの馬鹿。脱いだ服を適当に隠して、オレは用意されていたお茶を一気に飲み干した。









「ふあー! 緑間くん教えてくれてありがとう! これで試験は安心だよ!」
「苗字はすぐに理解してくれるから助かったのだよ。それに比べて……」
「わりーって!! でもオレもこれでばっちり! 赤点は余裕でパスだな!」
「こんなに人をこきつかっておいて赤点だったら撃つのだよ」

 勉強会はとても充実していたし、すごく楽しかった。女装は真ちゃんにはバレてない。名前は秘密にすると言った事はきちんと守ってくれる。


「じゃあな、名前!」
「また明日な」
「うん、またね! 緑間くんと…
 ……高尾ちゃん」

 勉強会中にこの呼び名は定着した。オレも笑顔を向ける。
 肩を並べて歩くオレと真ちゃんの後ろ姿を、きっと名前はニヤつきながら見送ってるんだろうけど。

 何はともあれ一歩リードっしょ。真ちゃんの納得いかない顔を見て、オレは優越感に浸った。








[*prev] [next#]
[mokuji]