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戦うべき相手




「緑間くん! はい!」

 今朝、名前は朝イチで真ちゃんの元に駆け寄ってお汁粉を渡していた。

「苗字? これは…」
「ええー忘れたの? 昨日、奢るって言ったじゃん!」
「お前が奢る必要など無い。待っていろ、金を払う」
「良いのに〜! …迷惑だった?」
「そうでは無い。買ってきてくれた事に関しては…礼を言うのだよ」

 何か今日の真ちゃん、妙にデレデレしてねえ? 素直にお礼とか言っちゃってるし…。
 最近、名前に対する真ちゃんの態度が少しずつ変わってきてる。ま、どうせ本人は気付いてないんだろうけど。


 この前、椅子から落ちた名前の唇が屈んだ真ちゃんの頬に触れた。偶然から生まれたキスなんだけど…。オレはかなりショックを受けた。なあ、真ちゃんは名前に好意を持っている訳じゃねぇんだろ?

(昨日、お汁粉の話なんてしてたっけか?)

 そういえば昨日の真ちゃんは先に帰ったんだっけ…。その後に名前と会ったとか? いや、ねーよな…名前は帰宅部だし…。
 やっぱり気になって訊いてみると、真ちゃんは少し動揺した様に見えた。マジで?
 名前はいつもの調子で「高尾くん顔こわいよ〜?」と笑っている。はぐらかそうったってそうはいかねぇよ? すると、真ちゃんがゆっくり口を開いた。

「苗字は、オレを助けてくれたのだよ」









「…ストーカーねぇ」

 昼休み、名前が隣のクラスへ行ったのを確認してから昨日の事を詳しく聞いた。近しい経験のあるオレは笑い話に出来ない。最近の世の中マジ恐いな。…それとお汁粉の話は関係あんのか?

「真ちゃん…大丈夫だった?」
「ああ。偶然会った苗字が気付いてな。彼女のふりをして追っ払ってくれたのだよ」

 真ちゃんの顔がほんのり赤くなった。は? …これは、ひょっとしちゃう感じ?

「オレは苗字が苦手だったが…割と良い奴だな。見直したのだよ」

 真ちゃんはそれだけ言って昼食をとり始めた。きっと何か隠してるな。さっき彼女のふりって言ってたけど、名前と真ちゃんはどんな事したんだろ。


「高尾、」
「……何?」
「今でも、苗字が好きか?」

 オレを試すような視線を送る真ちゃんにそう訊かれる。答える前に教室のドアを視界に捉えた。

「真ちゃん、その話はまた今度な? …名前帰ってきた」

 会話はそこで終了。真ちゃんは納得のいかない顔で眼鏡を押し上げた。悪ぃな、視野広くて。

「たっだいま〜! ちょっ、ラブラブカップル! 見つめあってどうしたの!?」
「「はぁ…」」
「あ、邪魔しちゃった!? ごめんごめん! でもさ、にふふ…私も二人がいちゃついてるの見たいな〜♪ さあ、続きを…」
「「……」」


 ……オレ達がまず戦わないといけないのは、名前のぶっ飛んだ思考回路なんじゃね?








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