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掴めない奴




 遅い。遅い遅い遅い。

 高尾の奴がいつまで立っても待ち合わせ場所に現れない。オレを待たせるとは良い度胸をしているのだよ。
 だが、オレを支配している感情は怒りだけでは無い。普段は必ず連絡を寄越す高尾から全く応答が無いのだ。…心配して当然だろう。

 ラッキーアイテムの目覚まし時計を覗くと、待ち合わせ時間から40分が経過していた。


「いた! 緑間くん!」

 気のせいだろうか。オレの天敵の声が聞こえた。どうやら待ちすぎて頭が沸いて来たようだ。奴がここにいるはずが無い。

「緑間くん!」

 気のせいだ。オレが待っているのは高尾であって、苗字とかいう変態な奴では無い…。

「おい緑間くん! そんなに私がちっちゃいかぁ!!!」
「……うぐっ…!!? 苗字っ!!?」

 背中を拳で一発…地味に痛い。
 気のせいでは無かったようだ。ラフな服装にポシェットをぶら下げた苗字がピョコピョコ跳ねていた。身長が低いのはあながち間違いでは無い。

「何故、貴様がここ…に…」



「……真ちゃん…」

 オレの目に飛び込んで来たのは苗字ともう一人。俯き気味の高尾だった。

「…わり、待たせちった…」

 高尾は笑っているが、いつもの高尾で無いのは一目瞭然だ。苗字が一緒にいるのと何か関係があるのか? オレが導き出した答えはひとつだけだった。

「苗字、高尾にいったい何をしたのだよ」









「…本当なのか、それは」

 近くのファミレスで向かい合う、オレと高尾。高尾の隣では苗字がチョコパフェを食べている。
 高尾から聞いたのは信じがたい事実だった。痴漢されていた高尾を苗字が助けたらしい。男が男にそういう行為。いかにも苗字が食い付きそうなシチュエーションだ。なのに、助けただと?
 高尾の目は嘘をついているようには見えない。よく見ると目が少し赤い。泣いたのだろうか。

「高尾くん、言えて良かったね!」
「名前…」
「さて、デートの邪魔しちゃ悪いから私は行くね。会計よろしく! また学校で!」

 苗字はいつの間にか完食していたパフェの代金をテーブルに置いて席を立った。

「あっ…名前、今日はありがとな!」

 高尾に微笑んで、苗字は去って行った。意外だ。てっきり着いてくるとか言い出すと思ったのだが。

「つー訳で…本当にごめん、真ちゃん。…おーい、真ちゃん?」
「…あ、いや…」
「…ブフォッ。真ちゃんらしくねー! 怒ってくれて良いんだぜー!」

 今はそれどころでは無いのだよ。オレは苗字をまだ信用出来ないでいる。高尾はそんなオレの気持ちを察したらしい。

「ねぇ、真ちゃん。名前…良い奴だよ、本当に」

 高尾はいつもの軽いノリでどこか真剣な表情を見せた。


 とりあえず「高尾が無事で良かった」と思った事を言うと、「真ちゃんやっぱ怒ってるっしょ」と真顔で返された。
 …チョップしてやるのだよ。高尾、歯を食いしばれ。








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