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マッサージ




「うー…」
「唸るな高尾」
「肩が重いんだよ…」

 昨日の休日練はいつにも増してしんどかった。文句言ってるけどさぁ…真ちゃんだって疲れた顔してんじゃん。

「高尾くん、大丈夫?」

 名前が眉を下げて心配してくれてる。ちくしょー、可愛い…今日の名前はマジ癒しだわ! 変な事言わなきゃ本当に可愛いなぁ。

「ねぇ、肩辛いならマッサージしようか? 私得意なんだ!」
「え、良いの?」
「待て、苗字」

 真ちゃん、空気読めよ…。素人が筋肉触るなとか言うつもり? 大丈夫だって…オレそこまでヤワじゃねーし。

「今までお前に付きまとわれて解った事だが、お前の馬鹿力はとんでもないのだよ。高尾が崩壊する。やめろ」

 そこかよ!!! しねえよ!!!

 あ、でも確かに名前は力が強いんだった。どうしよう、ちょっと恐くなってきちゃったよ、オレ。

「高尾くんは大切なバスケ部レギュラーだもん。そんな事しないよ…。辛そうにしてる高尾くんをこれ以上見たくないだけ…」

 わ…今日の名前は本当に優しい。

「苗字…」
「お願い、優しくするから…」
「…っ、勝手にしろ。オレは知らん」
「緑間くん…! ありがと!」

 あれ、真ちゃんの顔が赤い。どういう事だよ…。

「高尾くん、ちゃんと気持ち良く出来るように頑張るからね!」

 まあ良っか。名前はこれからオレにマッサージしてくれるんだし!
 名前の台詞が何だか卑猥に聞こえるのはいつもの事だ。気にしない気にしない。

「じゃあ、行くよ?」
「…っ」

 うわぁ…うわぁ…っ! 名前の小さな手がオレの肩に。それだけで疲れが取れ…ん?

「お…っ…?」
「ど、う? 力はセーブしてるつもりなんだけど…」

 おい、嘘だろ…。名前、めちゃくちゃマッサージ上手い……! あー…何これ、ヤバい…気持ち良すぎ…。

「…っ…はぁ〜良いわ…名前…。もっと強くー…」
「ん、本当に? あ〜ここめっちゃ凝ってるじゃん!」
「あ…あー、そこそこ! 上手いなぁ名前は…」

 あれ、真ちゃん、まだ顔赤「緑間くん!! 顔赤いよ!! 高尾くんの気持ち良さそうな声に興奮したんだね!!」「いだだだだだだだ!!!」「高尾おおおお!!!」

 名前がいきなりオレの肩を掴んだ。技でもかけたのかこれ!? マジ崩壊する!!!

「名前!! 馬鹿!! 痛い!!」
「あ、ごめん! 高尾くん!」

 死ぬかと思った。肩を一回回す。

(お!?)

 さっきまで感じていた肩の重みが全く無い。名前のマッサージセンスは本物だ。痛い思いはしたけど、マジで楽になった。やってもらって良かった。自然と笑顔になっちゃうオレに、真ちゃんは盛大な溜息。

「はあ…だからやめろと言ったのだよ」

 そんな風に言う癖に眼鏡のブリッジいじっちゃって…羨ましいんだろ、素直じゃないねぇ…。

「真ちゃんも揉んでもらえば? めっちゃ肩軽くなるぜ?」
「断る。オレまで潰されるのだよ」
「そんな事言わずに! ね、緑間くん!」
「…っ!? おい、苗字…!!」

 名前が今度は真ちゃんの肩のマッサージを始めた。

「うわ、緑間くんも相当凝ってんじゃん…。いつも3Pシュート沢山打ってるもんね…」
「…っ」
「あ、ここ硬い…っ。少し力強めるよ?」
「…っおい…! …くっ……」

 はあ…真ちゃん、気持ち良いのバレバレだよ…。
 つーか、どうして名前の言葉は厭らしく聞こえるのか…。気を引き締めて無いと下半身がまずい事になりそうだ。
 名前の方を向けば、何だかとても恍惚とした表情をしていて…

「…っ、良い感じに、ほぐれてきたぁ…っ」
「!!?」

 うわ!! マッサージしてる時の名前、頬っぺたピンク色じゃん!! めっちゃ可愛い顔してる!!
 ヤバい…これはヤバい…。あー顔が熱くなってきた…。真ちゃんはこの顔を見て…ん? 別に名前に好意があるとかそんなんで赤面したんじゃないよな? あれ、何でオレ不安になっ「高尾くん!! 顔赤いよ!! 緑間くんの気持ち良さそうな顔に興奮したんだね!!」「ぐあああああああ!!!」「うわああ!! 真ちゃああん!!!」

 名前が真ちゃんの肩を掴んだ。ああ、これは痛い!! 真ちゃん大丈夫か!?

「苗字貴様ぁあぁぁ!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

 真ちゃんに頭を掴まれて叫ぶ名前。助かった、あのまま見つめてたらどうなってたか…。

「だって、高尾くんも緑間くんも本当に気持ち良さそうな顔してくれてたんだもん! 嬉しくてさ…!!
 それに…マッサージ中の二人の声に、何だか私、すごい興奮しちゃって…」
「「……え」」

 真ちゃんの手が緩んだ。
 名前は顔を赤くして、頬を両手で押さえて俯いた。この恥ずかしそうな顔は普段の名前と少し違う…。

「ごめん、やっぱ何でも無い…」

 確信した。今の名前は、男同士とかそういうの関係無く、マジで興奮してる。あーもう! 何て言えば良いのオレ達は!!

「あ、もうこんな時間!! 隣のクラスの友達に漫画借りて来ないと! じゃあラブラブカップル、また後で!」

 いつもの顔に戻った名前は、早口にそう言って教室を走って出ていった。顔に火照りを感じるオレと真ちゃんを残して。


「あー…真ちゃん?」
「……何だ」
「とりあえず、残り時間休憩しよっか?」
「そうだな…」

 肩は解れたけど、心が凝ってしまった。そんな昼休みの出来事。








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