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昼休みの1コマ




※キャラが大崩壊
※オチが無い!








───某日、洛山高校。


「実渕くん、裸エプロンって知ってる?」

 昼休み。2年生の教室内にて藪から棒に飛んできた質問内容に耳を疑い、その場にいた赤司は息をするのも忘れて固まった。少女──苗字名前は軽そうに再度同じ事を訊ねる。

「唐突ねえ」

 彼女の視線の先には、今赤司が部活の用件を伝えていた実渕の姿があった。

「名前、空気を読んでくれ。僕が玲央と話し中だという事態すら認識出来ていないのかい。それほどにお前は馬鹿なのか、そうか」
「辛辣! …赤司くん、私は先輩なんだよ? 一応」
「誰が認めるか。少なくとも僕は認めていない」

 赤司から見て名前は一つ歳上に当たる。しかし赤司は、尊敬の欠片がからっきしだという理由により敬語も遠慮も無く名前を適当に扱う。初めは実渕にくっついている先輩として優しく接していたが、意味不明な言動を繰り返されるうちにワカメと同じ存在として名前を見るようになっていた。つまり、究極に苦手なのだ。
 現在進行形で赤司が困り果てている側で、実渕は相変わらず苦笑ばかり。赤司には彼の寛容な態度が理解出来ない。

「駄目だ…想像したらムラムラしてきた。鼻から赤司くん出そう…」
「名前、鼻血が出そうだって言いたいのかい? ん? お前は死にたいようだね」
「冗談だよ! 赤司くんごめん!!」

 命乞いのポーズをふにゃりふにゃりと行う名前に、赤司は滅多にしない怠そうな目付きを投げかける。天帝の顔も段々辛くなってきた。それに気付いた実渕がようやく名前を軽く咎め始める。

「苗字ちゃん。征ちゃんを困らせちゃ駄目よ」
「実渕くんはする気無い? 裸エプロン」
「悪いけどそういう趣味は無いわね」
「……残念」

 実渕が会話に関与しても名前はなかなかぶれない。赤司はついに睨みを利かし出す。名前は渋々、実渕の机に手をついて項垂れた。しかしその後、すぐに閃いたと言わんばかりに実渕に迫った。

「それなら、私が実渕くんの身体を開発する!」

 瞬間、実渕の顔から笑みが剥がれて消え失せた。空気を揺らしていた小さな呼吸も無くなったように思える。急に緊迫感を醸し出した彼の様子を見て、限界を感じた赤司は席を立った。名前は振り向いて首を傾げる。

「赤司くん行っちゃうの?」
「ああ、まだ他の部員のところへ回るからね。後は二人の好きにすると良いよ」

 名前は実渕に一度思いっきり激怒されて自重を覚えるべきだ。そう考え、赤司は教室を出た。少しだけ、閉じられたドアの前で様子を窺っていく事にしよう。怒鳴られる名前を見たら少しは鬱憤を晴らせるだろう。
 実渕の顔は前髪に隠れて表情を読ませまいとしている。名前は下から覗き込むように実渕へ近付いた。

「…実渕くん、怒った?」
「怒るわよ。征ちゃんの前でなんて事言うの、アンタは」
「だって、似合うと思ったから」

 少し反省の色を魅せる名前の目に向け、実渕がゆっくり顔を上げた。

(…玲央……!?)

 赤司は目をカッと見開いて、ドアの隙間からの光景を凝視した。実渕の表情は予想だにしないものだった。彼は頬をじわじわと赤らめて、震える唇を結んでいる。瞳の色は恍惚に近いそれで、怒っている態度には程遠い。
 いったいどういう事だ。湯豆腐のごとく煮立つ脳内をフル稼働させても赤司の思考は上手にまとまらない。

「恥ずかしかったんだね」
「……何よ、悪い?」

 名前は優しく微笑んで首を横に振る。

「私、ますます好きになっちゃった…玲央の事」

 ぽつりと呟いた名前の言葉で実渕は更に顔を火照らせ、口に手を添えて小さく声を絞り出した。

「もう…名前は、ずるいんだから…」
「ごめんね。この件は今度二人きりで話そう?」

 赤司は呆然とした。過疎化中の教室の隅で愛おしそうに見つめ合う名前と実渕。よそよそしい雰囲気など微塵も無い。さっきまでの空気は何処へ消えたとツッコみたくなるほどに彼らの周りは桃色花畑だ。何故だ。

(…変なものを見てしまった)

 場違いな気がした赤司は、数多の疑問やその他諸々を抱えながら教室を離れた。ふと脳裏に浮かんだ、まるで別人のような名前の暖かい笑み。あんな顔もするのか。そう思っては、赤司の口から馬鹿馬鹿しさを含む溜息が洩れた。

(やはり、あいつは好きになれない)

 まだまだ終わらない昼休み。今日も彼らはそれぞれの有意義な時間を過ごしている。




fin.

(2014/03/24)




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