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知恵の輪




「真ちゃん、それ今日のラッキーアイテム?」
「そうだ」

 おは朝の要求もすごいけど、毎回それを用意する真ちゃんパねぇ。ちなみに今日の蟹座のラッキーアイテムは知恵の輪。真ちゃんはそれを使う事は一切せずに机に置いているだけ。

「おー! 今日の緑間くんのラッキーアイテムは知恵の輪かぁ!」
「…! 返せ苗字!!」

 そこに名前が現れ、一瞬にして知恵の輪を奪った。「少しやらせてよ〜」と笑う名前とそれを捕まえようとする真ちゃんのやり取りに、オレは何とも言えない気持ちになる。

「高尾、傍観していないで助けるのだよ!」
「え〜? いーじゃん別に…」

 使わないから悪いんじゃね? 名前は席に着いて早速知恵の輪をいじり出した。

「あれ?」

 ガチャガチャ音を立てているが、いっこうに外れる気配が無い。名前ってこういうの苦手なのか?

「名前、ちょっと貸してみ? こうして、こうして…ほら、取れた」

 手本を見せるつもりじゃなかったけれどオレがやってみると簡単に外れた。これには真ちゃんも驚愕している様子。名前は目を輝かせている。ちょっと嬉しい。

「高尾くんすごい!」
「結構簡単だったぜ? 名前もやってみ」

 もう一度知恵の輪を接合させて名前に渡す。またガチャガチャ音を立てて名前の格闘が再開された。

「確か高尾くんはこうやって…あれ? 何か違う…」

 こうやって頑張っている名前を間近で見るのは初めてだ。何もかも難なくこなしている名前が一生懸命に知恵の輪に向かっている。…可愛い。

「ん、ふっ…ぅ…」

 え? あれ?

「ん…っ、うぅ…。っ…んっ!」

 うわーちょっと待って。名前頑張りすぎてだんだん声が……!! そんなに力いらねぇって!!

「お、おい苗字…」

 真ちゃんの声が震えてる。これは悶えても仕方無いわ。オレは気を紛らわせたくなって、真ちゃんの方を向いた。

「あ…真ちゃん、睫毛付いてる」

 ナイスタイミング! オレだけじゃなくて真ちゃんの気も反らせるじゃん! ついでに助けるよ、真ちゃん!

「…っ? こっちか?」
「違う、逆。待って、今取るから」

 席を立ち、真ちゃんと向き合う。状況を察して素直に目を閉じてくれた真ちゃんの頬に指で触れた。うわ、すげー美肌。

「よし、取れたぜー」
「…ありが「ひゃっふう!」


バキャアアッ


「「!?」」

 真ちゃんからの貴重なお礼は名前の変な叫び声と謎の破壊音で掻き消された。…せっかく視界から外してたのに!!

「高尾くん、緑間くん…っ! どうしたのっ…いきなり、そんな…ボディタッチなんて!!」

 ンな大袈裟な。睫毛取っただけじゃん。
 あっ、クラスメイト達がこそこそ話始めやがった。こっち見んな!! オレと真ちゃんは何もしてねぇしされてもねぇよ!!

「頬に触れる瞬間ばっちり見れた! ごちそうさま! 二人が急接近したところ見たらインスピレーションが働いて知恵の輪外れたよ!」

 確かに名前の両手には外された知恵の輪があった。ただ、その知恵の輪は妙に変形していて───

「名前、それ…」
「……え? …あ」

 外されたというより破壊されたというニュアンスがしっくりくるその残骸を見つめる名前。
 真ちゃんはラッキーアイテムを壊されたにも関わらず、無言で血の気なく固まっている。オレもさっきのときめきを全部吹っ飛ばして顔を青くした。

「…ごめん緑間くん、ラッキーアイテム壊しちゃった…怒ってる?」


ビクゥッ


 真ちゃんは一回肩をびくつかせてまた動かなくなった。珍しい、ここまで怯えている真ちゃんは試合でも見た事が無い。これは一生お目にかかれないかも知れない。…なぁんてな…笑えねぇ。
 オレは目の前に座っている名前を見下ろし、人生二度目の衝撃を受けた。(一度目は名前の男同士好きカミングアウト。)
 名前は、ただの女の子には無い怪力の持ち主だったようだ。

 先程のオレと真ちゃんを思い出したのかまたニヤニヤし始めた名前を尻目に、オレは真ちゃんの意識を救出しに向かった。








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