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とあるマネジの果敢な戦闘




「じゃあ、戸締まりよろしくな」

 一足早く着替えを済ませると、大坪は部室を出ていった。

「宮地。大坪、何か用事あんのか?」
「あー…来週の練習試合の件で監督に呼ばれてるんだとよ」

 大坪以外のスタメンとマネージャーの苗字名前は秀徳バスケ部の部室に残っている。
 備品整理をしていた名前はふと顔を上げ、人のいないロッカーの方を見た。

「…ん?」
「んあ? どうしたの、名前ちゃん」
「…何だろう、あれ」

 名前が指差したのはロッカーの細い隙間。カサカサと何かが蠢めいている音がする。
 高尾はタオルで汗を拭いながら名前の指差した方向へ首を回した。木村宮地緑間も奇妙な音が気になり、着替えようとしていた手を止めた。

「何だと思う? 緑間くん」
「虫だと思うのだよ」
「木村先輩の予想は?」
「緑間と同じく」

 秀徳高校は決して新しい建物とは言えない。それはバスケ部の部室でも同じ事が言える。
 最近は練習がハードだったために簡易な掃除しかしていなかった。虫が現れてもおかしくは無い。

「宮地先輩、ちょっと見てきてください」
「何でだよ! おいっ、名前!!」

 名前は素早く宮地の後ろにスタンバイして思いっきり押す。高尾が便乗して名前を手伝い、宮地はあっと言う間にロッカーの隙間前まで出された。
 ロッカーの影で暗くなっていて解りづらいが、黒いものが動いているのは確認出来る。

「よく見えねー。……もう良いじゃねぇか。明日で───」


ヒュッ────


 突然、隙間から黒いものが飛び出した。勢いのあるそれは宮地の頬を掠め、木村の顔に着地した。

「……宮地サン?」
「……い、今何か飛んできやがった…」

 宮地は震えた声で言い、自分の頬を撫でた。高尾も宮地の反応に背筋を凍らせ、彼の背中から手を離す。
 名前と緑間は、恐る恐る黒いものが飛んでいった先(木村)を見る。そこには、約10cmの巨大なゴキブリが止まっていた。

「えぇ!?」
「なっ…」
「ブフォッ」
「木村アアアアアア!!!!」

 彼らがそれぞれの反応を示す中、木村は声にならない悲鳴を上げ仰向けで気絶した。宮地が急いで木村に駆け寄り体を揺さぶったが反応が無い。

「き…木村…っ!! しっかりしろ!!」

 ゴキブリは居心地が悪かったのか、すぐに木村から緑間のロッカーに移動した。

 名前は近くにあった月バスを掴み、くるくると丸めて構える。戦闘モードに入った名前に、緑間の顔が青ざめた。

「私蜘蛛は苦手だけど、ゴキブリなら全然OK。戦える」
「ままま待つのだよ苗字。オレのロッカーで殺生はよせ」
「黙ってて緑間くん。気が散る」
「やめろ!!! ゴキブリの中身が飛び散ったらどうしてくれるのだよ!!!」
「真ちゃん、意外にグロい事言うね」

 緑間が慌てて手を伸ばしたが時既に遅し。名前の高速スイングが緑間のロッカーを直撃した。ロッカーはミシリと嫌な音を立てる。
 殺ったと名前は思った……が、そこにゴキブリはいない。名前の攻撃を察知して逃げてしまったのだ。

 ゴキブリが潰されたと勘違いした緑間は絶望を抱き床にへたり込む。高尾と宮地は凄惨な光景に、呆然と立ち尽くしていた。




 木村と緑間が朽ち果てた後、高尾と宮地も別の月バスを手にして名前に応戦した。しかし、名前の一撃がゴキブリに警戒心を与えてしまったせいで、捕獲は困難を窮めている。

「名前ちゃん、そっち行った!!」
「わっ!! 宮地先輩の横!!」
「ギャアアアアアアア」
「宮地サン!!!」「宮地先輩!!!」

 そしてたった今、一番の主力であった宮地がゴキブリの餌食となった。

 名前と高尾は横たわる宮地の前に膝をつき、静かに合掌した。

「宮地先輩、あなたの犠牲は無駄にはしません」
「あとはオレと名前ちゃんに任せてください。先輩方と真ちゃんの仇は、必ず討つんで」

 ゆっくり立ち上がり、ボロボロになった月バスを構え直す。見据えた先には、木村・宮地・緑間を陥れた憎きゴキブリの姿。

「行くよ、高尾くん」
「おう」

 お互いの拳をぶつけ合い、壁に止まったゴキブリ目掛けて走り出す。ゴキブリも彼らに対抗するように同じタイミングで飛んだ。
 ゴキブリに狙われたのは高尾だった。彼は体勢を立て直して攻撃しようとしたが、運悪く月バスを手汗で滑らせ、離してしまった。

「「!!!」」

名前は、すかさず高尾のフォローに回るべく月バスを振り上げる。

 高尾の腹に止まったゴキブリへ、名前お得意の高速スイングが美しくお見舞いされた。









「ん〜…もう完全下校時刻だというのにねぇ……」
「すみません監督。戸締まりはあいつらに頼んだんですが…」

 話し合いを終えた大坪は、部室の鍵が返って来ないという中谷と共に部室の前へ訪れていた。

「宮地ー木村ー……緑間ー高尾ー苗字ー」

 電気はまだついているのに大坪が呼びかけても返事が無い。
不審に思いドアノブを捻ると、ドアは簡単に開いた。




「……大坪先輩、中谷監督……」

 部室の中には名前ただ一人が佇んでいた。

 名前の周りには木村・宮地・緑間の無惨な屍。そして、お腹を押さえて倒れている高尾と生命を奪われたゴキブリ。

「わ…わたし………」


 生気の失われた名前の目から涙が零れる。

 彼女の手から月バスが落ちるのと同時に、大坪の野太い叫び声が谺した。




fin.

(2013/05/23)



 秀徳メンバーとマネージャーのお話でした。書くのがとても楽しかったです! 木村君と緑間君、ごめんなさい!←
 千野様、お待たせしてしまいすみませんでした(;_;) 全てがギャグで無くても良いという優しいお言葉に甘えさせていただきました…! ギャグ要素が吹っ飛び過ぎてしまったような…うむむ(゚゚;) 少しでも楽しんでいただけたのなら、あふたは幸せです!
 リクエスト&10000hit企画参加、本当にありがとうございました!




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