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腐女子の未来予想




「……進路ぉ?」

 苗字名前は素っ頓狂な声を上げて首を傾げる。
 2月某日、名前が在籍するこのクラスには、進路希望調査が配られていた。

「だるー…オレ、なーんも考えてねーわ…」

 左隣の高尾和成は、嫌そうにその用紙の上に肘をついた。
 バスケ第一の彼の進路は、未定。名前も頷き、高尾のように項垂れた。

「まだ私達、1年生だもんね〜」
「だよな〜」
「何を言っているのだよ。今からちゃんと考えろ」

 進路にも人事を尽くしてだな…と力説するのは、右隣の緑間真太郎。
 彼の手元にある用紙は、既に第三希望まで項目が埋まっている。名前はそれを覗き込もうと試みたが、緑間のデコピンにより阻止された。

「いだあっ! 容赦無さすぎだよ緑間くん!」
「……名前は既に決まっていると思っていたのだが」
「そんな訳無いよ〜…あ、そうだ!」

 名前は高尾と緑間を交互に見てにやりと笑った。何か企んでいるような、そんな瞳をしている。
 高尾と緑間の顔が引きつった。この表情の名前はろくな事を考えていない。今までの付き合いで経験済みだ。

「高尾ちゃんと緑間くんの、将来のラブラブ生活を妄想しようか!」

 名前は立ち上がり、笑顔で言った。幸い周りのクラスメイトには聞こえていない。
高尾と緑間は溜め息を吐く。こうなった名前は止めても無駄だ。これも、彼らが経験から学んだ事である。













「真ちゃん、お帰り!」

 大学帰りの緑間を、キッチンから出てきたエプロン姿の高尾が迎えた。
 以前緑間が包丁を握り大惨事を起こしてから、ほとんどの食事作りは高尾が行っている。今日も例外では無く、彼が夕食当番だ。

「……高尾だけか」
「オレだけで悪かったな! ……あいつなら、もう少しで帰って来ると思う」
「……そうか」

 緑間は返事もそこそこに、提出が迫っているレポートの続きをしようとノートパソコンを開こうとした……が、高尾に制された。

「ほら、真ちゃんも手伝えって!」
「いきなり何なのだよ」
「時間ねーから! 真ちゃんだって解ってんだろ? 今日はあいつの……「たっだいまー!」

 リビングのドアが勢い良く開け放たれた音で、高尾の台詞は遮られた。
 顔を向けると、年頃にしてはラフな格好をした女子大生が立っている。

「名前!」
「帰ったのか」
「二人とも…! 私がいないからってイチャイチャしちゃって!」

 名前の顔は彼らを見てニヤついている。安定した名前の様子に、高尾はやれやれと頭を掻いた。

「あーあ…、まだ準備中だったのに…」
「え? 今日何かあったっけ? 高尾ちゃんと緑間くんの結婚記念日?」
「んな訳ねーだろ!!」
「名前、まさか……今日が何の日か解らないのか?」

 緑間にそう言われても、名前は全く思い出せない。今日は金曜日。ただの週末としか考えつかなかった。
 高尾と緑間は一瞬だけ顔を見合わせ、考え込む名前に向かって声を揃えて言う。


「「名前、誕生日おめでとう」」


「……あ」
「やっと思い出したか……」
「自分の誕生日くらい覚えとけよ〜!」

 名前は高尾と緑間に飛び付き、ありがとうと繰り返し叫んだ。そんな彼女の頭を、二人は優しく撫でる。

「毎日が幸せ過ぎて、忘れてたよ」

 喜びに満ち溢れた、名前の笑顔。嬉しすぎてとろけたようなニヤけ顔になっている。高尾も緑間もつられて笑った。

「ケーキ用意してあるからな!」
「高尾、先に夕食にするのだよ」
「今日こそ、あーんやってね! 二人で!」
「「誰がするかっ!」」

 楽しくて平和な、三人の同居生活。
 これからもこんな暖かい毎日が続けば良いなと名前は心の中で思った────。













「あ…れ?」

 妄想世界から戻った名前は疑問に思った。何故、二人の将来の中に自分がいるのだろうか。
 ポカンとする彼女を不審に思った高尾と緑間は、名前を揺さぶったり、彼女の顔の前で手を動かしたりしている。

「名前ー?」
「どうしたのだよ」
「高尾ちゃん…緑間くん……えっと…」

 名前がさっきまでの自分の妄想を話すと、高尾と緑間は口元を緩ませた。
 彼女が、無意識のうちに自分達を必要としてくれている事が嬉しい。

「良いな、そんな未来! オレ大賛成!」
「ああ、悪くないのだよ。高尾は気に入らないがな」
「真ちゃん酷くね!?」

 揉め合いを始めた高尾と緑間を、名前は幸せそうに眺める。
 この二人と未来を歩んでいけたら。そんな自分の気持ちにはっきりと気が付いた。

 名前はシャーペンを握ると、進路希望調査の用紙に第一希望を書き込んだ。


『高尾ちゃんと緑間くんと未来を共にする』


 三日後、名前は担任に呼び出され笑われ、用紙の再提出を命じられる事になったが、この希望は最後まで消えなかった。


(明るい未来が待っていると良いな!)




fin.

(2013/05/01)



 『腐女子とオレ達の見解』未来的番外編でした。
 瑠璃様、いかがでしたでしょうか? 最終的に腐女子の妄想とあふたの自己満足になってしまいましたが…(゚゚;) 楽しんでいただけたのなら幸いです…! あふたはちょっと褒められるだけで舞い上がる管理人ですので、また気軽に声をかけてくださいね!
 神田瑠璃様、リクエスト&10000hit企画参加ありがとうございました!




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