Main | ナノ



昼休みの1コマ




※キャラが大崩壊
※内容が下品
※オチが無い!








───某日、海常高校。


 昼休み。笠松は家から用意したドリンクを飲み干してしまった事に気付き、自販機でスポーツドリンクを買うため財布を手にして教室を出た。
 今、笠松はどうしてもスポーツドリンクが飲みたい気分だった。しかし近場の自販機では品切れ表示になっている。彼は渋々、少し離れた中庭の自販機までやって来た。

チャリン。ピ、ピ、ガコン。

 商品を取り出すべく、腰を丸める。ふと、笠松の視界の隅に眩しい色が小さく映った。黄瀬だ。一人で廊下を歩いている。
 今はとにかくスポーツドリンクが飲みたい笠松は、そりゃあ昼休みだし黄瀬ぐらい歩いてるか程度に思考を留めた。黄瀬から意識を外し、キャップを開けてドリンクを口に──…入れる前に、笠松はもう一度黄瀬の方に目を凝らした。黄瀬の後ろ、正しくは尻辺りに何かいる。低姿勢になり抜き足差し足忍び足で黄瀬を追跡しているその人物に、笠松は見覚えがあった。

(…苗字?)

 苗字名前。黄瀬と同じクラスで、彼から「マジ良い子な変人っスよ」と評価をつけられている女子だ。バスケ経験は無いがそれなりに知識があり、笠松も一目置いている知り合い……そんな女子が何という事だ、黄瀬の尻を追っているではないか。笠松は開きかけのキャップと口を閉じ、その異様な光景をまじまじと見つめた。

 黄瀬は特に変わった様子無く、近くの男子トイレに入っていった。名前はさすがに中までは追わず、入口でボディーガード宜しく立ち止まる。
 笠松は益々状況が読めず首を傾げる。と、名前がこちらに気付いた。

「笠松先輩!」

 神妙な顔から人懐っこい笑顔に変えて走ってきた名前の挨拶を微妙な顔で受け取る。世間話にも満たないショートな駄弁をしつつ、名前の意識は常に黄瀬にあった。笠松はやはり気になり、訊ねた。

「お前、何で黄瀬追ってんだ?」
「ああ…、コレのためです」

 名前は笠松の前で両手を組み、人差し指だけを立てて拳銃を構えるようなポーズをとった。笠松の口から「な…」と声が洩れる。

「おい……まさか、それ…」
「はい、おっしゃる通りの浣腸です。黄瀬くんの尻穴にかまします」
「待て!!!!」

 そんな事をするつもりだったのか。笠松は衝撃のあまり、「何も言ってねぇよ」というツッコミすら忘れた。無論やめさせようとするも、不服そうな名前。

「とめないでください、先輩。これは黄瀬くんへの制裁なんです」
「制裁だぁ?」

 意味解らずな笠松に、名前は午前最後の授業で返された小テストについて話を始めた。

「私、黄瀬くんと席が隣で偶然見えちゃったんですけど…」


「今回の小テストはサービス問題ばかりで助かったね、黄瀬くん。……黄瀬くん?」
「あ、うわ、名前っち」
「えっ…嘘っ、15点!? 平均80点だよ!? どうして…」
「うー…前日黒子っちと電話してて勉強忘れてたんスよぅ!! まあ、誰にもバレなきゃ良いんス!」
「うわ…悪い子!」



「…と、いう事がありまして。黄瀬くんには教科書を見せてあげたりテストのヤマを教えてあげたりしているので、普段からの思いも込めて刺そうかと」
「よし、殺っていいぞ」
「ありがとうございまーす!」

 笠松の許可をもらい、名前がパアッとやる気になったところで黄瀬がトイレから出てきた。中で直したのか、髪型が整っている。名前は「行ってきますね!」と去り、再び黄瀬の尻元に人差し指を構えて歩き出した。

 笠松はさっぱり忘れていたスポーツドリンクの存在を思い出し、コクコク飲み始めた。いろいろあった後だからか、美味い。
 飲みながら黄瀬達の方を見やる。タイミングを定め、いつ刺そうかと悩んでいる名前の様子が見受けられた。

(随分時間食っちまったな…)

 そろそろ教室に帰ろうかと笠松が思案した時、変異は訪れた。黄瀬が突然立ち止まったのだ。名前はその突然に反応出来ず───


サクッ

───刺した。

 名前はポカンと間抜けっ面になり、黄瀬は言葉では説明しかねる状態となった。補足だが、彼はモデルである。

「ヴフゥッ」

 こうなる事は解ってたじゃねぇか……そう思いながらも黄瀬の顔がツボに入った笠松は、口に含んでいたドリンクをものの見事に吹いた。中庭の植物達にスポーツドリンクのスプリンクラーが降り注ぐ。笠松は慌てて口を押さえ周りを見渡した。人はおらず、誰一人として笠松を見ていない。ゲホゲホと数回噎せ、彼は安堵の溜め息を溢した。

 もう一度視線を戻すと、黄瀬が腰を曲げてピクピクしている。笠松は一回の咳払いで呼吸気管を正常に戻してから目をぐっと細めた。名前がいない。てっきりその場で笑い転げでもしていると思っていたが…彼女は何処へ消えたのだろうか。

「笠松先輩! やりました!」
「うおっ!?」

 笠松が振り返ると、満足で笑顔を咲かす名前が立っていた。「凄い吹きっぷりでしたね、先輩!」どうやら彼女は黄瀬に手を加えてすぐにこちらに来たらしい。

「ちょっと想定外に刺さっちゃいましたけど、目標は達成しました!」
「あー、お疲れ」
「笠松先輩、お昼ご飯ってもう食べましたか」
「いや、まだだが…」
「じゃあご一緒しても良いですか?」
「手ぇ洗ってからにしろよ」
「はーい!」

 元はといえば真面目に小テストに取り組まなかった黄瀬が悪いのだと考えをまとめ上げた笠松は、生まれたての小鹿のように回復し始めた黄瀬に一瞥を投げかけ、水道へ向かう名前の後を追った。最後に黄瀬と目が合った気がするが、声のかけようが無いので無視しておいた。

(今日の部活では軽めのシバきにしてやるかー…)
「先輩、早く!」
「…今行く」

 この後、黄瀬はファンの女子数名に保護されて無事一命を取りとめた。至って平凡な、昼休みの1コマである。




fin.

(2014/02/17)




back