愛しみ 「おはよう、名前」 「……玲央」 休日の朝、玲央の腕の中で目が覚めた。 枕元にある時計の針は、午前9時半を回ったところを指している。しまった、寝過ごした。早く起きないと。頭は物凄い速さで回転しているのに、身体に怠さが残っていて動けない。それ以前に、玲央の腕がしっかり私を抱き締めていて、身動きが取れない。 「玲央、離して」 「あら、どうして?」 「迷惑だから、すぐに帰る」 「何言ってんの、まだ良いわよ。それに昨日の今日でしょ。アンタ、活発に動ける訳?」 「……う」 昨夜の情事を思い出す。急に恥ずかしくなって玲央の胸板に飛び込んだら、細いけど男らしい指が私の乱れた髪に触れた。 玲央の右手は、そのまま私の顔に降りてきて顎を持ち上げる。キスされるのかと思って目を閉じてみた。でも何も起こらない。もう一度目を開くと、玲央が眉を寄せてこちらを見ていた。 「昨日も思ったけど、名前の肌、荒れちゃってるわよ…」 玲央は、私の些細な変化にすぐ気が付く。そう言えば、最近不規則な生活ばかりしていたんだっけ。私は大雑把だから気にしていなかったけれど、彼にとっては大問題らしい。 「そうかなぁ…」 「もっと自分を大切にしなさい」 「んー…」 玲央は壊れ物を扱うように、私のざらついた頬を包み込んで、やっとキスをしてくれた。私は、蕩けそうになりながら玲央のキスを受け入れる。 昨夜みたいな噛みつく激しいキスも好きだけど、私はこの優しいキスが一番好きだ。 「名前、愛してる」 微睡んでいる私に玲央が低めの声で囁いた。脳内に響いて、心臓が跳ねる。 「……吃驚させないでよ」 「本当に不意討ち弱い子ね、可愛い」 両手で真っ直ぐ前を向かされて、至近距離で見つめられる。視線を泳がす以外の術が、私には無かった。 降参して、玲央を見つめ返す。私より白い肌が桃色に染まっていた。 私の頬は彼みたいに美しく染まってくれない。きっと今は、だらしなく火照った赤色だと思う。 「まだ居ても良いの? 私」 「訊くまでも無いでしょ、そんな事。さて、昼までもう一眠りしましょうか」 「……うん」 また玲央の優しいキスが降ってくる。互いの体温の心地好さとベッドの上の暖かさが相俟って、眠気を誘った。 「玲央、」 「何かしら」 「私も…あ、愛してる、から」 少し掠れた声で言った私に、玲央は柔らかく微笑んでくれた。 私が自分を大切にしなくても、玲央が私を大切にしてくれているなら、それで充分な気がする。 これからも、貴方に愛される私でいられますように。 愛しい彼の長い睫毛が下りるのを見届けて、私も瞼を閉じた。 fin. (2013/05/30) 企画『アストロノート』に提出しました! back |