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仕方ないよ、親子だもん




「父さん…!!」

 部活を終えて帰宅した息子が、リビングに入ってくるなり、ソファーで寛いでいた私の旦那──由孝に泣きついた。その隣に座っていた私は、由孝の膝に顔を埋めて嘆く身長180cm越えの高校生を呆然と眺める。

「…おかえり」
「ただいま、母さん」
「どうした、息子よ。何かあったのか?」
「父さんの言う通りにしたのに、フラれた!!」

 またか。私は静かに溜め息を吐く。


 我が森山家の一人息子は、海常高校のバスケ部で1年生の時からスタメンに選ばれている実力者だ。由孝に似て顔も整っている。それに加え、勉強熱心で常に成績は学年上位をキープ。全てにおいて過去の由孝を上回っている。
 だが、息子は全くモテない。理由は明々白々。由孝の可愛い女の子好きなところまで遺伝してしまったからだ。
 しかも息子の場合、この欠点が由孝以上に深刻で酷い。最近は由孝の馬鹿なナンパ教育のせいでますます悪化している。

 今日も息子は由孝直伝の方法で女の子の口説きに失敗したらしい。まだ上旬なのに、これで今月10回目だ。

「その女の子に何て言ったの?」
「君とこうして出会えたのは運命だ。たとえ明日地球が滅亡しても、オレは君を愛し続ける自信がある。さあ、オレと───」
「あ、うん。もう結構です」
「そんなに素晴らしい事を言ったのに何故お前はフラれたんだ? 解せぬ」

 顎に手をあて真面目に考え込む由孝を、私は冷めた目で見る。
 …そりゃフラれるよ。地球が滅亡する前に台詞が滅亡しちゃってるよ。

 息子と同級生で海常バスケ部レギュラーの笠松二世は、女の子が苦手でも絶大な支持率を得ているというのに…。

「由孝…もう息子に変な事吹き込むのやめてよ…。由孝の二の舞になりかねない」
「二の舞…? 何を言ってるんだ、名前」

 由孝が、突然私の肩を強く抱いた。急展開に頭が追いつかずパニックになる。
 文句を言おうと睨み付けたら、由孝の顔がすぐ近くにあって私は固まった。ああ、いくつになっても綺麗な笑顔だ。

「オレは、ちゃんと名前という運命の女性に巡り会えた。立派な成功例じゃないか」

 恥ずかしい台詞なのに、由孝の言葉は私の心に真っ直ぐ届いた。体が熱くなっていく。
 リップ音付きのいやらしいキスを私の頬に落として、由孝は離れた。息子がニヤニヤしているのは見なかった事にしよう…。

 私と結婚してからの由孝は一途で浮気もしてないから、実際に私は運命の女性なんだろうな。そう考えると、由孝の妻になれて本当に良かったと思う。

「父さんが羨ましいよ。オレもイチャイチャ出来る女が欲しい。モテたい」
「言っとくけど、由孝は学生時代全くモテてないからね?」
「……そうなのか、父さんよ」
「そうだぞ、息子よ」
「だからモテるのは諦めて」
「母さん!?」



仕方ないよ、親子だもん!



 あの頃の由孝のようにフラれてフラれてフラれまくったら、私みたいな女性が息子を拾ってくれるんじゃないかな。

 ……かなり先の話になるだろうけど。




fin.

(2013/05/16)



派生連載⇒[君と永遠を誓います]

企画『愛くるしい』に提出しました!




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