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smoothly




「むっくんの髪って、綺麗だよね」

 部活の休憩時間、ベンチに座ってお菓子を食べているむっくんにそう言ってみた。
 むっくんの長い紫色の髪はバスケをするのには少し邪魔かも知れないけど、私はこの髪が好きだ。

「いきなりどったの〜? 名前ちん」
「なんとなく」
「へ〜?」
「触ってみても良い?」
「ん〜」

 肯定にも否定にも聞こえない、むっくんの間延びした返事。どうでも良いってか…。じゃ、遠慮なく。
 普段なら届く事のないむっくんの頭。汗で少しだけ湿っていて、触り心地が良い。

 私が夢中でむっくんの頭を撫で回していたら、いつの間にかお菓子を食べる音が聴こえなくなっていた。

「あれ、むっくんどうしたの? ひょっとして触られるの嫌だった?」
「……別に」

 むっくんは目を合わせてくれない。顔を覗き込むと、頬がちょっとだけ赤くなっていた。

(もしかして…)

むっくん…照れちゃった? 訊いてみると、「ちげーし」の一点張り。むっくんの顔はどんどん赤みを増していく。
 そんなやり取りの最中に、遠くから休憩時間終了の合図。

「あ…休憩終わりだよ、むっくん」
「名前ちんウザイ」

 からかいすぎたね…むっくん拗ねちゃった。
 でも、大丈夫。私は誰よりもむっくんの扱い慣れてるもんね。本気で怒ってない事くらいお見通しだよ。

「むっくん」
「…何〜?」
「この後、先輩達とミニゲームでしょ? むっくんのチームが勝ったらお菓子あげる!」
「え〜? そんなの楽勝じゃん」

 むっくんは綺麗な紫色をなびかせて立ち上がった。あっという間に、むっくんの頭は私の届かないところにいってしまう。
 残念だけど…むっくんが機嫌を直してくれたので良しとしよう。

「名前ちんがそう言うなら、ヒネリつぶしてきてあげる〜」

 こんな風に無邪気に笑うのは私の前だけにしてよね? …なんて思ってしまう私も、単純で子供っぽい性格なのかも知れないね。


 さて、いつになったら告白してくれるのかな…。




fin.

(2013/04/04)




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