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私と彼氏と眼鏡




「じゃじゃーん! 名前、見て見て!」

 私の教室に勢いよく飛び込んできた、彼氏の和成くん。手には黒縁の眼鏡が握られていた。

「あれ…どうしたの、それ」
「真ちゃんのパクってきたぜ!」

 わあ〜…さわやかなドヤ顔だね、和成くん。

 確か緑間くんってすっごい視力悪いんだよね? 放置してきちゃって大丈夫なのか。そもそもどうやって奪ってきたのか…。私は沢山の疑問を抱いた。

「じゃあ、この眼鏡を…オレがかけまっす」

 和成くんは、緑間くんの事を全く気にしていないノリでそう宣言した。私は携帯をカメラモードで構えて、「どうぞ」と声をかける。

「装着! …うぐあ!」
「はい、撮るよー。ってどうしたの和成くん…大丈夫?」
「ヤバい! 痛い! 真ちゃん目ぇ悪過ぎっしょ!!」

 眼鏡をかけて少し眉を寄せる和成くん。わ、わ、かっこ良い。相棒の眼鏡も似合っちゃうんだ! 本当に和成くんは何してもオシャレだからすごいよなあ…。

「っあ……頭がくらくらする…」
「わぁお!?」

 私がときめいているタイミングで和成くんが私に抱き付いてきた。あっという間にすっぽり腕の中に閉じ込められてしまう。

「名前…」

 しかも普段より低い声で耳元を攻撃して来やがった。ふざけんな! 私が耳弱いの知っててやってるだろ!

「……な、何」
「オレ、目が悪くなっちゃったらどうしよ…。名前…オレの事嫌いになる?」
「うぁ…」

 和成くん、もうやめてください。耳に和成くんの吐息がかかって、体の力が入らなくなってきた。
 和成くんは何度も「好きなままでいてくれる?」を繰り返す。そんなの…決まってるじゃん。

 私は力を振り絞って和成くんの首に腕を絡ませ、耳元に唇を寄せて囁いた。

「和成…だぁいすき…」
「ッ!!?」

 和成くんの腰は一瞬にして砕け、今度は私が見下ろす形になった。和成くんは顔を真っ赤に染めて私を見ている。

「あぁぁ…名前に倍返しされた…」
「やっぱり狙ってやってたか…」

 ずれた眼鏡に、上目遣いの和成くん。形勢逆転だ。今度は私から意地悪してやろうかな……うーん…


「和成くん」
「はぁい…」
「私はこれからも和成くんを好きでいるよ。和成くんは?」

 考えてみたけど、意地悪なんて思い付かなかった。

「オレも! これからもずーっと、名前が好き!」

 笑顔で立ち上がった和成くんは元気いっぱい叫んで、また私を抱き締めた。


(でも、和成くんの視力が落ちたら大変だよね)

 眼鏡無い方が和成くんはかっこ良いよ。そう伝えると、和成くんは舞い上がって眼鏡を放り投げた。

 あ。忘れてたけど、それ緑間くんの眼鏡。




fin.

(2013/04/01)




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