ある日の放課後 「えーっと…」 「……」 「緑間くん?」 「…黙れ」 「ハイ、スミマセン」 緑間くんに体育館裏に呼ばれて、かれこれ20分くらいが過ぎようとしていた。 「緑間くん、バスケ部の練習始まっちゃうよ?」 「今日は休みなのだよ」 「そうなんですか…」 さっきから会話をしようとしても速攻で断ちきられるばかりだ。どうしよう。どうしたら良いんだろう。 私は緑間くんが苦手だ。体大きいし、真面目だし、仏頂面だし。いきなり体育館裏に来いと言われた時は殺されるんじゃないかと思った。 ずっと手に持っているレンゲも恐すぎる。それはスープとかを掬うものだよね? 凶器として私に殴りつけたりしないよね? * (うーん…) あれからさらに時間経過したけど、緑間くんに全く変化無し。何がしたいのか解らないままだよ。面白がってるようにも見えないし。 むしろ怒ってません? 私、何もしてないよね? に、逃げたい。 「え、と…ごめん。何か申し訳なくなってきたから、私っ、帰るね…?」 い、言えた! 緑間くんに背を向けて一歩踏み出そうとしたら、腕を引っ張られた。 ひいいいい。マジすいませんごめんなさい。やっぱり帰っちゃダメだよね!! 今度こそ殺される!! 「…ご、ごめ…」 「苗字…オレが、恐いか?」 「…え?」 緑間くんの声は、私の腕に込められる力とは裏腹にとても弱々しくて。私はもう一度緑間くんを見た。 「苗字、聞いてくれ」 「はい…」 「オレは、お前を恐がらせたい訳では無いのだよ…」 レンゲが小刻みに震えている。緑間くんの手が震えているんだ。よく見ると、肩も腕も。何故かさっきまでの緑間くんへの恐怖は感じられなかった。 「えっと、とりあえず、帰らないから、ね。ちゃんと話聞くし」 緑間くんは覚悟を決めたのか、深呼吸すると、私をしっかり見つめた。 「苗字、オレは……お前が、好きだ」 キュイイーン 飛行機の飛ぶ音が聴こえる。…緑間くん、今、好きって言った…? もしかして、もしかして、私を呼び出したのって。 (これ…言うため…) そうか、告白だったのか…。理解したとたん、顔がじわじわと熱くなっていく。急にバランスが取れなくなってふらついた私を緑間くんが受け止めた。恐いと思っていた大きな体は優しく私を包んでくれている。近くから速い鼓動が伝わってきた。 「緑間くんも、ドキドキしてる?」 「…そうだな」 抱き止めたまま、私を見下ろす彼の表情はとても優しかった。 fin. (2013/02/21) back |