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嫌われ役




「奇遇っスね〜」
「…黄瀬」

 昼休み、屋上の端っこに座って名前センパイが空を見上げていた。隣に腰掛けると、あからさまに嫌そうな顔。いつもオレの周りにいる女の子達は、その時は何故かいなかった。

「どうしたんスか、こんなところで」
「別に、何だって良いでしょ」

 冷たい。名前センパイはオレにとことん冷たい。理由は解ってる。オレが意地悪だから。
 名前センパイには、適当に甘やかせば寄ってくるそこらへんの女の子とは違う特別な扱いがしたかっただけなのに。いつの間にか度が過ぎてしまったようだ。

「随分と、嫌われちゃったなぁ…」
「誰に?」
「目の前にいるセンパイっス」

 名前センパイはゆっくりとオレを見上げる。
 そのまま、ずっと見ていてよ。オレを見ていてよ。

「私に嫌われたって、黄瀬は何も困らないんじゃない」
「そうかも知んないっスけどね」
「……ほら」

 オレを見てくれていた目はすぐに逸らされた。ああ、またやっちゃった。どうして素直になれないんスかね、オレ。

 名前センパイは屋上の入口を見て「やっと来た」と呟いた。そこにいたのは、なんと笠松センパイで。

「今朝、下駄箱の中に手紙が入ってたの。話があるって」

 そのままオレに目を合わせる事なく言った名前センパイの横顔はとても幸せそうで、恋する女の子そのものだった。

「じゃあね」

 去って行く名前センパイを眺める。そういえば最近、女の子と話すにはどうしたら良いかって笠松センパイに質問されたなあ…。

 入口からだと、オレ達のいた場所は死角らしい。笠松センパイは突然現れた名前センパイを見て驚いている。顔は真っ赤になっていた。

(…ねぇ、名前センパイ)

 おめでとうって素直に言ったら…オレは、ただの嫌いな奴じゃなくなるっスかね?


「私も好きだよ、笠松くん!」

明るくて透き通った声が、オレの耳に微かに届いた。




fin.

(2013/02/10)




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