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赤司&お正月




 着いたぞ、と赤司くんに言われた時にはまだ眠くて、私は目を擦る。まだ暗い明け方の寒空の下、隣に立つ彼は白い息を吐いて私の方を向いた。

「大丈夫かい、名前。眠そうだが」
「んー…平気、多分」

 初日の出を見るために赤司くんが連れてきてくれたのは、絶景が観られるという穴場のスポットだった。家からあまり離れていないところでそんな場所を知っていた赤司くんに感謝したのも、もう去年の出来事となる。

 朝練で慣れているのか、赤司くんはここに来るまで欠伸の一つもしていない。それどころか私の事を心配する余裕まであるらしい。私は、頑張って瞬きをしたり首を振ってみたりして会話をする。赤司くんはそんな私に微笑んで、ちぐはぐな話に付き合ってくれていた。

「ごめんね、初日の出が見たいって言ったの私の方なのに」
「良いんだ。僕もきちんと見てみたいと思っていたからね。……ほら、もうすぐ陽が昇るよ」

 段々と覚めていく私の脳と、明るんでいく周りの景色。少しずつ光が顔を出す。私は思わず水に弾けるような声を上げた。赤司くんは何も言わずに眺めている。

「名前。あけましておめでとう」

 赤司くんが、新年の挨拶を改めて言ってきた。私も背筋を張って同じ言葉を返す。今年初めての陽に照らされた彼の髪は、緋色をきらめかせて美しく輝いていた。

「赤司くん、綺麗」
「ああ、綺麗な朝陽だね」

 赤司くんに向けての誉め言葉だったのに、逸らされてしまった。彼は私の言葉の本当の意味に気付いていないのか。はたまた気付いていて敢えてはぐらかしたのか。私は解らないまま視線を陽に戻す。赤司くんは私を何でもお見通しなのに、私はまだまだ彼について謎な部分を明かせていない。

 今年はもっと沢山、赤司くんの事が知れたら良いな。願いを込めて、新年の空気を目一杯肺に入れる。その後、自然と絡んだ指先からは温かさが伝わってきた。








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