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紫原&お正月




 ごくり、と紫原くんが喉を鳴らす。そんなに期待しないでと私が笑っても、彼はずっと目の前の重箱を見つめている。
 私が蓋に手を添えると、もう一度唾が飲み込まれる音が聞こえた。

「じゃあ開けるよ。紫原くん」
「うん…」

 彼が頷いたのを確認して、私はぱかりと蓋を取った。瞬間、紫原くんの目がキラキラと輝き出す。
 重箱の中身はポテチ、まいう棒、チョコレート、キャンディー…その他いろいろなお菓子。これは私が考え付いた、紫原くん専用のスペシャルおせちなのだ。
 他の人から見たらただのお菓子の詰め合わせだけど、紫原くんから見たらきっとこれは玉手箱に匹敵する中身なんだと思う。期待以上の反応をしてもらえて、私は心の中で拳を突き上げた。

「これ、全部名前ちんが用意したの?」
「うん。紫原くんが喜ぶものが良いって思ったから」
「ありがとうねぇ」

 大好きな彼のためなら、年末に菓子を沢山買い込むなんて容易い作業。新年早々こうして嬉しそうな顔をする紫原くんを見れたのだから、きっと私は今年一年間を幸せに過ごせると思う。

「そんじゃ、早速いただきまーす」
「あ…」
「一番はやっぱりこれでしょ〜」

 紫原くんが最初に手を伸ばしたのは、私が唯一手作りしたカップケーキだった。自信が無かったから隠すように隅っこへ寄せていたのに、ちゃんと気付いてくれたみたい。
 うま…と唇を舐める彼の仕草は、私の頬を染めるのには充分過ぎた。

「名前ちん、今年も美味しいお菓子いっぱい作ってね〜」

 味わいながら嬉しい事を言ってくれた彼に、私は元気良く首を縦に振る。紫原くんはそんな私の頭を、お菓子を持っていない方の手でがしがしと優しく撫でた。








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