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青峰&お正月




 ポストへ入れた手先に、角張ったものと輪ゴムの感触が伝わる。元日から働いている郵便配達の方々に感謝して、私はその年賀状の束を掴み取った。
 ネットやメールが発達している今時のご時世でも、我が家には去年と同じくらいの量の年賀状が届いている。一番上にあった自分宛の年賀状はさつきちゃんからのものだった。マネージャーの仕事で忙しい中、送ってくれたのだと思うと口元が緩む。

 家でゆっくり読ませてもらおうとドアに手をかけたら、背後から私を呼び止める男声とテンポ早く近付いてくる足音が聴こえた。
 この声は。そろりと振り返ってみると、元日に会うとは予想していなかった青峰くんが立っていた。

「よお、名前」
「ぎゃあ」

 吃驚した私の、彼に向けた新年第一声は色気の無い叫びになってしまった。もちろんそれを指摘されない訳が無い。青峰くんは「ぎゃあって何だよ」と笑いを堪えながら言った。
 年末を思い出してみたけど、特に約束はしていなかったはずだ。届いた元旦祝いのメールにも、青峰くんの名前は混じっていなかった。何でここにいるんだろう。

「あけましておめでとう…どうしたの。今日、元日だよ?」
「オマエ馬鹿にしてんのか? 年賀状渡しに来てやったんだよ」

 大きな手が私の顔の前に伸びてくる。ほらよ、とやる気無さそうに渡されたのは確かに年賀状で。紙面には青峰くんの走り書きした字で謹賀新年が漂う言葉が綴られていた。住所は省かれているけれど、苗字名前様、とフルネームでしっかり書いてある。
 おお、まさかの手渡しですか。…って、ううん。ツッコむところはそこじゃないよね。

「青峰くんが私に年賀状を届けてくれるなんて…」
「あ? オレはやるときゃやんだよ」

 年末、青峰くんは大会で凄く忙しかった。だから年賀状なんて書く暇は無かっただろうし、来るとしてもメールだけだと思っていた。でも、青峰くんはちゃんと私の事を覚えていてくれて、元日に年賀状をくれた。
 どうしよう、嬉しい。顔を綻ばせてお礼を言えば、青峰くんは伸びた返事をしてそっぽを向いた。

「つーか、さっきからにやけすぎだっての」

 そう言いながらも優しい顔を絶やさない青峰くんに、私はずっと表情を引き締められないでいた。








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