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緑間&お正月




 初夢は一富士二鷹三茄子だっていうけれど、好きな人が夢に出てきた方が縁起が良くて幸せになれそうだ。

「…と、私は思うの!」

 言い終えて、私は食べ途中のお汁粉に意識を戻す。食卓を挟んで座る緑間くんは呆れ顔。彼の手元にあるお汁粉はもう空で、餡の一つすら残っていない。溜め息と一緒に椀を置き、眼鏡のブリッジを上げる彼が発した一言は「くだらんな」だった。

「だから、私の夢には緑間くんが出てきたら…と!」
「知らん」
「緑間くんは私が出てきてほしいとか…」

 戯言を口にしていると彼は更に恐い目付きで私を睨んできた。私は「思わない?」と言い終わる前に口をつぐむ。あ、また溜め息吐かれた。

「お前よりも、縁起の良いものが出てきた方が嬉しいに決まっているだろう」
「はいはい、ごめんってば。緑間くんは私の夢よりも、高尾くんと富士山の上で麻婆茄子食べる夢の方が良いんだよね」
「何故高尾なのだよ」
「鷹の代理。適任でしょ?」
「おい」

 私は席を立ち、緑間くんの椀を持ってキッチンに入った。お汁粉のおかわりを盛って、食卓に戻り緑間くんに差し出す。厳しい顔をしながらそれを食べ始める彼は、本当に私といて嬉しいとか楽しいとかいう感情を持ち合わせているんだろうか。
 私も緑間くんに負けないくらいの溜め息を吐いてみる。彼の口から優しい言葉を聞きたかったのに残念だなあ…。私は少し落ち込み、まだお汁粉が半分ほど余っている自分の椀を持ち上げた。

「機嫌を損ねたのか」
「…!」

 緑間くんがいきなり私の顔を覗き込んできた。吃驚したせいで私の持っているお汁粉の椀はぐらぐらと揺れる。私は慌てて両手に力を入れ、震えを止めた。

「そんな事…無い」
「名前。別にオレは、初夢にお前が関わるのが嫌な訳では無いのだよ。ただ、必要無いと思っているだけだ」

 緑間くんの顔はすぐ離れていった。言葉の意味が理解出来ずに瞬きする私を一目見て、彼は胸を張って自信満々に鼻を鳴らす。

「夢に出なくても、オレはいつも名前の側にいるだろう」
「…それって」
「可能性の低い無駄な期待はやめて、お前は現実のオレだけ見ていれば良いのだよ」

 そこまで断言すると、緑間くんは恥ずかしくなってきたようで眼鏡をカチャリカチャリと騒がしく弄り出した。
 そういう事だったのか。私の気持ちは喜びへと素早く切り替わる。本当に、素直じゃないんだから。でも、そこが彼らしいというかなんというか。今年も付き合い甲斐がありそうだと思った。

 私は笑って、自分の椀を手にもう一度席から立つ。彼の照れが収まるまで、お汁粉を装るふりでもして来よう。








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