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黄瀬&お正月




 初詣に何を着ていこうかぎりぎりまで迷い、迎えた元日。振り袖を所持していない私が選んだのは、結局デートの時と変わらないシンプルな私服だった。

「名前、あけおめっス!」

 そんな軽い気持ちで服を選んだのが間違いだったのだと今、派手な袴姿の黄瀬くんを目の前にして後悔している。
 重大な事を忘れていた。そういえば黄瀬くんはモデルで、ファッションセンスに長けているんだった。

「グッパイ、黄瀬クン」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待って!! 何で帰るんスか!!」

 服装が惨めに思えてきて家に引き下がろうとする私を、慌てて黄瀬くんが阻む。言葉を濁すと黄瀬くんは凄く心配そうな顔をした。私はこの表情にめっぽう弱い。これを見せられたら、正直に話すしか無いのだ。

「その…、そんな派手な袴を着た黄瀬くんの隣を歩くのは申し訳無いというか、気が引けるというか…」
「……へ?」

 黄瀬くんは袴姿に似合わないボケた顔で私を見た。渋ったせいで呆れられてしまったのだろうか。新年から我儘な態度をとった自分に顔が青くなる。折角の気持ち良いお正月なのに。
 すぐに謝らなくてはと口を開こうとすると、突如黄瀬くんが盛大に笑い出した。

「申し訳無いって何スか! 名前らしくねぇっスよー!」

 口を覆って笑い続ける黄瀬くんに睨みを利かす。悲しませたと勘違いしてしまったのが悔しくて、私は黄瀬くんの肩を弱い拳でポカッと殴った。

「大丈夫。ちゃんと可愛いっスから」
「……同情とかウザッ」
「酷っ!?」
「ごめん、冗談だよ」

 本当にこんな格好で良いのかと訊けば、黄瀬くんは当たり前だと真っ直ぐな返事をしてくれた。静かに差し出された手に自分の手を置いたら、もう私服で行く以外の選択は断たれた。

「名前が嫌なら初詣は後回しにして散歩しよう!」
「別に、もう気遣わなくて大丈夫だよ?」
「オレがしたいだけっス。…付き合って」
「…うん」

 「来年はオレも私服にする」と宣言して黄瀬くんはまた笑った。今度の笑顔にはちゃんと甘さが含まれている。私は彼の眩しさに堪えきれず、目をきつく閉じた。

 今年もよろしくね。歩きながらお互いに告げ合ったら、何も無い道が華やかに変わった気がした。








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