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黒子&お正月




 外は凄く寒そうだ。薄暗い冬の景色は想像すればするほど冷たく感じる。こうして炬燵に入っているこの状態でも、景色によって体温が奪われる気がした。
 私は寒空を映す窓から、向かい側に座る黒子くんに視線を移す。温かそうな服に身を包んでいる彼はさっきから外を全く気にせず分厚い本を読み耽っている。

「黒子くん、みかん取って」
「……どうぞ」
「炬燵、あったかいね」
「……そうですね」

 多分、彼は心から私に意識を傾けていない。本に夢中だから適当に話を合わせているんだろう。みかんを手に取って私に渡すまでも、黒子くんは一度たりとも目を合わせてくれなかった。
 これでもう三つめになるみかんを完食する。相手してよ黒子くん、みかんで私が太る前に。

「……」

 本気でつまらなくなってきた私は、炬燵から足を抜いて立ち上がった。

「何処へ行くんですか」

 黒子くんが文庫本から顔を上げた。みかんの繊維で汚れた手を洗ってくると言えば、「すぐに戻って来てくださいね」と頼まれた。あれ、意外な反応。

「折角の元日を名前さんと過ごしているのに、離れるのは寂しいです」
「私の方が寂しいって。さっきから目も合わないじゃない」

 むくれると、黒子くんはきょとんとして私を見つめてきた。

「たまに足が触れるだけで、ボクは満足していましたけど…」

 不満なら隣に来ますか? なんて言って、横にずれてスペースを開ける黒子くん。私は何も返せなくなり、顔を逸らして洗面所に向かった。黒子くんの言葉に、体が燃えるように熱くなってしまったのだ。
 何度か足が触れていた事はあったけど、黒子くんはそんなの気にしていないと思っていた。それなのに、いきなりあんな事を言うなんて。

(唐突過ぎじゃないの…)

 戻ったら、隣に座って冷気を帯びた手のひらを黒子くんにくっつけてやるわ。決意した私は開き直って腕を捲り、火照る指先を勢いよく水道水にさらした。








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