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with 宮地清志




「お前の反射神経廃れてんじゃねぇの?」

 誰もいない廊下に二人分の足音と一人分の怒り声が行き渡る。私は未だズキズキと痛みに襲われる顔に手を添え、隣を歩く宮地くんの様子を窺った。彼は体育館を出た後から、ずっとこんな調子で私を叱っている。

 この状況に至ったのは数分前。宮地くん達の頑張っている姿が見たくて、バスケ部の練習を見学していた放課後の事。レギュラーのミニゲームを夢中で楽しんでいた私は別方向から飛んでくるバスケットボールに全く気付かなかった。もちろん避けられなくて、衝撃によりしゃがみ込んだ私の辺りどころは超絶に悪かった。他の部員達にまじまじと見られて恥ずかしい中、ちょうどメンバーチェンジして休憩に入った宮地くんが監督に声をかけ、私を保健室に連れていくと言ってくれた。

 痛いけど、今は宮地くんと二人きり。この気まずさを打破するためにも明るくいかなきゃ、そう思って宮地くんの方を向いたら大きな瞳が更に開かれて私を捉えた。

「馬鹿!! 下向け!!」

 頭を掴まれて下を向かされたと思ったら、私の鼻と口を宮地くんの手が覆った。私はボールがぶつかった時以上にパニックになって、宮地くんを呼ぼうとした。でも、「喋るな」とまた怒られてしまった。

「やべぇな、大丈夫か?」

 喋るなと言われて疑問符をぶつけられた場合はどうしたら良いんですか…。とりあえず首を縦に振ると鼻腔に湿り気を感じた。同時に宮地くんの指の間から滴り落ちる、赤い液体。

「え……?」

 その液体が血だと解った瞬間に私の口から声が零れた。まさか宮地くん、どこか怪我してるんじゃ。
咄嗟に手を掴んだら、彼から頓狂声が筒抜けた。

「苗字…?」
「!!!」

 彼の手には鮮血がべったりこびりつき、真っ赤に染まっていた。私の身体は体温の下がる感覚を纏った。膝ががくがくと震える。視界は簡単にぼやけていった。

「み、宮地くんが死んじゃう!!」
「ハア? 何言ってんだ」
「だって宮地くん血まみれ…!!」
「落ち着け轢くぞ!! これ、オレの血じゃねーし…。つーか暴れんな、鼻血が飛び散る!!」
「……ハナヂ?」

 混乱収まらず揺れ動いていた私の頭は微動だにしなくなった。冷静になって自分の鼻下に触れると、例の鮮血。宮地くんを汚していた原因を思い知り、血の気は益々引いていく。
 宮地くんは一旦私をしゃがませて離れ、近くのお手洗いからトイレットペーパーを一つ抱えて戻ってきた。

「ったく…急に暴れたりすんなよ。血、飲んじまったら吐き気の原因になるんだからな」

 私の肩を支えながら、宮地くんは手際よくペーパーを私に押し当てた。他人の血で汚れた自分の手を拭くよりも先に、私を優先してくれている。

「汚いもの見せてごめん…」
「全くだ…っつーか、謝罪するぐらいなら礼言いやがれ」
「…ありがと」
「……おう」

 やっぱり宮地くんは面倒見が良い人だ。それだけを反芻させながら、私は俯いた。今の自分が恥ずかしさと鼻血でどんな顔になっているかなんて…考えたくもない。

「…別に、こんぐらいで嫌いになったりしねぇって」
「……へ?」
「行くぞ、保健室」

 神様、私は益々彼に夢中になってしまいそうです。








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