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with 花宮真




 機嫌が悪い、イライラする、ムカつく。私の気分は今最高潮に害されている。そんな時に、何でよりによって目の前にこいつが現れるのか。

「おーおーどうした。いつにも増して不細工な顔になってるぜ、苗字」
「…うるさい」

 無人の公園の隅にあるベンチで、私は俯いたまま奴の声に応じる。偶然ここを通りかかったであろう花宮は、口角を上げて面白がるかのようにクツクツと嫌な笑い方をした。そして、私の左側に許可も取らず腰かける。ムカつく。腹が立って家から飛び出して来たのに、これじゃ居心地の悪さ変わらないじゃない。

「……」
「何があったんだよ。お前がシケてると気持ち悪いって」

 ただ、一人でいるよりはいくらかマシだ。怠そうに問いかけられて、私は重い口を開く。

「親と、進路の事で揉めたんだ」
「ふはっ…くだらねぇ」

 いつもはここで私が文句を言い返して会話が成り立つ。でも、今はそんな振る舞い出来るはず無かった。
 頭の良いこいつには解らないだろう、私の辛い気持ちなんて。じわじわと悔しさで視界が潤んでいくのを、私は下唇を噛んで堪える。さすがに黙ったままは嫌なので、馬鹿馬鹿と小さな声で言い散らしてみた。花宮は全然関係無いし、八つ当たりなんてこいつの性格並みに最低だって解ってる。でも、頭の良くない私は今こうする事しか気分を晴らす方法が思いつかない。
 あー、何で泣いてるんだろう。こいつの言う通り、メソメソしている自分が気持ち悪い。

 花宮は私が言葉を無くすまで何も言わなかった。そのうち私の力が尽き、静寂が拡散してから「苗字、」とやっと話し出す。

「オレにそんだけ言い返す力、残ってたんだな」

 奴はまた、ふはっと変な笑いを溢す。悪童め…まだ私を非難し足りないのか。

「残ってて悪かったね」
「悪くねぇよ」

 突然キッパリ断言され、驚愕と動揺で流れかけた涙が止まった。

「親にも、その有り余ってる力でぶつかってみれば良いんだろーが」

 どんな否定語を浴びせて来るんだろうと思っていたら、まさかのアドバイスだった。クシャリと一回、私の頭を優しく撫ぜた花宮はズボンのポケットに手を入れて立ち上がる。
私は触れられた箇所に手を這わせた。嘘、もしかして今。こいつ、柄にも無く私を──

「…とでも言えば満足だろ? お前は単純だからな。バァカ」

 …こいつが私を慰めてくれたり励ましてくれたりする訳、無いか。ああそうですかって返そうとして顔を上げたら、花宮の横顔が私のぼやけた視界に映った。

「…!」

 思わず、二度見してしまう。なんと、奴の頬が少しだけ染まっていた。見つめていると、私と反対方向に顔を逸らされる。不自然な動作が可笑しく感じた。

「花宮、」
「あぁ?」
「ありがとう。私、頑張る」

 振り向いた花宮の目が大きく見開かれる。直後、バァカバァカと声を荒げて早足に去ってしまった。語彙の乏しい罵声の羅列が、奴の焦りを物語る。普段はもっと冷淡なはずなのに。
 さっきの言葉は、やっぱりあいつの本心だったんじゃないかな。性格ひねくれてるから、私の肯定的な憶測でしかないけれど。

(…帰ろう)

 逃げないで、ちゃんと私の気持ちをぶつけてこよう。体を起こして仰いだ空は、クリアでとても爽快な色をしていた。








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