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オレの失望





 約束、してしまった。いきなりでフラれるかも知れない。でも、それでも…オレは名前ちゃんに告白する!






 今は本日最後の授業中。
 黒板を見るふりをして、名前ちゃんを盗み見る。

(……え?)

 名前ちゃんは黒板を見ていなかった。ちらちらと動く左斜め前の視線の先には。

(真…ちゃん)

 名前ちゃんは真ちゃんを見ている。

(……)

 何だか切なくなってきたところで、チャイムが鳴った。









 今日の帰りのSHRはあっと言う間だった。
名前ちゃんが、終わってすぐにパッとオレの方を向く。

「高尾くん! 話あるんだよね?」
「あ、ああ…ちょっと教室出ようか?」
「うん! どこで話しようか?」

 名前ちゃんは笑顔だ。さっきの真ちゃんへの視線は、偶然だったはずだ! 多分! …めげるなよ! オレ!

 真ちゃんがまたオレを睨んでる。悪いけど、真ちゃんに名前ちゃんは渡さねぇからな!






 とりあえず、部活まで時間が無いから、近くの屋上入口で話す事にした。
 階段を登る、オレと名前ちゃん。前を行く名前ちゃんを見れば、振り返ってにこっと笑ってくれる。ああ…幸せだなぁ。

 嬉しさのあまり、オレは完全に油断していた。

「!!!!」
「高尾くん!!!」

 階段の途中に落ちていた紙切れを踏みつけて、オレはバランスを崩した。

 名前ちゃんが手を伸ばしたけど、今この手を引いたら名前ちゃんも道連れになる。オレにはそんな事出来ない。

 階段から落ちるなんて…しかも好きな女の子の前で…。
 急すぎて、着地体勢もとれない。オレは痛みを覚悟して目を閉じた。




「……っ、あれ?」
「全く、だから今日のお前は最下位なのだよ…」

 痛みは感じない、誰かに包み込まれて助けられた。名前ちゃんは、前にいるし…。
 ……え? …“なのだよ”…?

「しっ…真ちゃん!!?」

 見上げると、確かに真ちゃんがそこにいた。おかしい。普段はホークアイが…。名前ちゃんばっかり見過ぎてた。
 つーか、普通に着いてきたのかよ!! …ああ、真ちゃん恋愛に関して鈍感だもんな。オレが告白しに行ったとか解んないよね。

「さっきキャプテンに会って、部活の用事をお前に伝えるよう頼まれたのだよ。それで呼びに来たらこの様だ、馬鹿め。…今日はオレも、お前がいないと危ないというのに…」

 つまり、こうだ。真ちゃんは、部活の用事を伝えようとオレ達に着いてきて、オレが階段から落ちたところを助けてくれた…と。真ちゃんがいなかったら、オレは……
 わあぁぁ…っ、真ちゃん、ごめん。

「……ありがと、真ちゃん」
「ふん、次から気を付けろよ…」






パシャッ────



「「!!?」」

 そこで、いきなり響いたシャッター音。携帯を構えた名前ちゃんと目が合う。
 え? 名前ちゃん?

「はぁ…! めちゃくちゃ上手く撮れてる! 高尾くんと緑間くんのラブラブ抱き合いショット!」
「「!!!!??」」

 そういえばずっとこのままだった!!
 慌てて、真ちゃんと離れる。

 名前ちゃんは携帯の画面を見つめて、今までにないぐらいにやけていた。こんな顔するんだ…こんな表情もエロくてイイ…じゃなくって!!

「どういう事だ? 苗字…」

 よく訊いてくれたよ真ちゃん!!
 そう、オレの聞き間違えじゃなかったら…今…

「どういう事って…ああ、このラブラブ抱き合いショットの事?」
「いやあああああ!!! 見せないで!!!」

 え? 意味解らないよ名前ちゃん!? ラブラブ? 誰と誰が? え? 写ってるのは真ちゃんとオレ。え? オレ達がラブラブ? え? 何々?

「高尾…落ち着け。苗字、何が言いたい」

 落ち着けるかっての。そう言う真ちゃんもめちゃくちゃ冷や汗掻いてるじゃん。
 オレは、もう一度名前ちゃんに目を向ける。名前ちゃんはにっこり笑った。

「本性バレちゃったんなら仕方無いや…。じゃあ、もう隠してもしょうがないね。この際、言わせてもらうよ…。私ね、高尾くんと緑間くんがイチャイチャしてるの見るのが大っ好きなんだ!!」


 ……はい? え?


「高尾くんに教室出て行くの見られてたって知った時は焦ったわーマジで。私が二人のイチャイチャシーンを観察してる事までバレてたのかと思ったよー!
緑間くんにガン飛ばされた時もひやひやしたぁ! 二人ともこう言う事に関しては鈍感で助かったよ!
いやぁでもさ、お互い鈍感なところもまたツボだよね! さすがチャリヤカーでラブラブ登校してただけの事はあらぁ!!
…ってか今緑間くん、高尾くんいなきゃ生きていけない発言しましたよね? そうですよね? いやぁーお熱いなぁ!」


 混乱するオレ達の前で、名前ちゃんはとても長い台詞を途切れる事なく言い切った。

 あ、真ちゃんの口が開いてる。


 名前ちゃん…名前ちゃん…

 大好きって伝えたかった名前ちゃんは、優しくて、良い子で、笑顔が可愛くて、純情…で……

 オレは、オレは──…


「隣になったから…これからはもーっと沢山二人のイチャラブシーンを観察出来るね!」

 こんな展開望んでなかったのに!!!!


 名前ちゃんからの「大好き」は、オレへでも真ちゃんへでも無かった。そして名前ちゃんからの告白は、オレにとっても真ちゃんにとっても最悪なものだった。

「改めて…よろしくね! にふふ♪」

 大切な何かが奪われ、後悔した。
 おは朝…やっぱり凄ぇわ。




「それで、高尾くんの話って?」
「グスッ…名前の馬鹿野郎!!!」
「泣いた! 逃げた! 高尾くん萌え!」
(キャプテンの伝言が頭からぶっ飛んでしまったのだよ…)








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