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 ベッドの上に体重を放り投げて横たわった。天井を仰いでから目を瞑ると、今日あった出来事がぐるぐるオレの中を回っていく。キツい練習とか眠かった授業とか、思い出される数々のシーンの一つに、彼女の名前と昼休みに笑い合った光景が浮かんだ。
 一度考え出すと止まらなくなって、名前の事ばかりが脳内を巡っていく。乙女な真ちゃんじゃあるまいしと苦笑してみても、自分を上手く誤魔化せなくて切なさが込み上げた。

 目を開きベッドから起き上がって、側に転がしておいた携帯を手に取る。操作して電話をかけるのに5秒、そこから名前が電話に出るのに3秒。10秒足らずのこの時間が、オレにはとても長く感じられた。


『こんばんは、高尾くん!』

 今日は練習の終了時間が遅くて一緒に帰れなかったから、名前と話すのは放課後以来だ。「部活頑張ってね」と言ってくれた明るさと同じ、澄んだ声。オレは嬉しさのあまり身震いした。

「こんばんはー、名前。早かったな、出んの」
『そうかな?』
「うん、マジで」
『…嬉しくて、つい』

 そんなときめく事ピンポイントで言われたら、何て返したら良いか解んなくなるじゃん。
 夜はホント、感情が豊かになるっつーか敏感になるっつーか…なんか、女々しくなってる自分が嫌だ。

『それで、何の話?』
「え、」
『…ん?』

 沈黙に陥ったのはそれからすぐだった。特にこれといった用事でかけた訳じゃ無いから、当然っちゃ当然。
 他の男の話は聞かせたくないから、真ちゃん関連の話題は用意ゼロ。焦って漕ぎ着けた話は短時間で撃沈した。何やってんの、オレ。

「ん、あ…いや〜その……」
『高尾くん、えっと…大丈夫?』

 オレの声が小さくなるに連れ、名前は落ち着きを失っていく。普段から会話に事欠かないオレだからこそ、名前はこれ程までに心配してくれているんだと解った。
彼女の前でテンパるオレは、実はコミュニケーション図るのあんまり上手くねーのかも…なんて。

「ただ名前の声聞きたかった……って理由になんねぇかな」

 かっこ悪いとは思ったけど、これ以上は名前に迷惑かけたくないから正直に伝える。
 名前は案の定、オレみたいに静かになった。

『……高尾くんの馬鹿』
「知ってる」
『…大好きだよ』
「オレの方が大好きだっつーの…」

 その後、中身の無い話をぐだぐだ繰り返した。話題が無くてもまともに話そうとしなくても、名前との電話は楽しい。もっと早く気付ければ良かった。

 最後に「おやすみ、また明日」を伝え、通話を終えた。もうさっきの切なさは消えている。
 今度は別の感情が込み上げてきて胸が苦しい。携帯を枕元に投げて乱れた前髪を両手で掻き上げたけど、高ぶる気持ちは静まらなかった。

(あーあ…超好きだわ…)

 早く明日にならねぇかな。会いてぇよ、名前。



22:35 無目的






(2013/08/25)

第8作目。声が聞きたくなって電話する高尾君。
リクエストありがとうございました!







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