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星が綺麗な夜だった。
だからちょっと寒いけれど外でその星を見上げたくなって隣のベッドで気持ち良さそうに寝ているロイド君を起こさない様にそっとベッドから抜け出し音を立てずに外へ出た。上着を持ってきて正解だったなと思う程に夜の空気は冷えていて吐く息は白い。はあ寒い。少し前の俺さまならこれだけの事に嫌悪を抱いてそもそもこんな夜更けに星を見るだけの為に外に出ようなんて思わなかっただろう。寒さは、雪には劣るもののあの光景を嫌でも連想させるから。勿論今だって全く平気な訳では無くてそれなりに不安にかられたりはする。けれど、それでも大分マシになった。それは絶対に旅の影響だろう。雪を見る度にフラッシュバックする記憶と向き合う勇気をくれたのも、疑心暗鬼の俺に人の温かさを教えてくれたのも、信じる大切さを教えてくれたのも、それから、本当の愛に触れられたのも全部、世界再生の旅の中でのこと。皆が俺に与えてくれたこと。頼もしい仲間の存在、愛おしいロイド君の存在があったからこそ俺さまは今こうして寒いと感じる事が出来るのだ。ああでもまさか自分がロイド君と二人旅をする事になるなんて道中は夢に思っていなかった。そりゃまあ悔しい事にロイド君と一緒に居る内にあいつの言葉と行動全てに惹かれて悔しくも想う様になっちゃっていた訳だけれど、でもあいつにはコレットちゃんがいるからってごく自然に諦めていたのだから。でもあいつはこれまた普通に俺さまに手を伸ばした。あの時の俺さまの驚きようったら相当なものだったに違いない。だって、驚いた。お前にはコレットちゃんがいるだろうって、すごく驚いた。そんな俺にあいつは何て言ったのだったか。

(だって俺ゼロスが好きだから、だっけか。本当に率直な事で)

最初はこいつの事だからきっと友達的な意味で言っているのだと自分に言い聞かせた。理由はどうあれロイド君が自分と居ることを望んでくれたのだからそれだけで十分だろうと納得させていた。けれど、それは違ったのだ。二人旅になった初めての夜、あいつはまるでおやすみを言うかのように、愛している、と口にした。思い出しただけも頬が熱くなる。嗚呼もう本当なんなのあの天然恐ろしい。二人旅をして数カ月が経ったけれどそれでもやっぱりあの唇が愛していると紡ぐ度に俺さまの心は爆発してしまいそうになるのだ。はあ、と溜め息を吐く。折角こうして星を見ていると言うのに思うのはロイド君の事ばかり。相当重症だわ、俺さまってば。それが何だか恥ずかしくて俺さまは星を見に来たんだと独り言を言い宿の裏手にある川縁に腰を下ろしてじっと星を見つめる。きらきら。シルヴァラントから見る星空はテセアラよりもはっきりと見えるかもしれない。綺麗。眩しい。綺麗。眩しい。…。

「…寒い」

「当たり前だろ」

腕を擦ってそう呟けば返ってくる筈の無い返事。その声に驚いて俺さまが後ろを振り返るよりも早くぱさりと体に何かが掛けられた。それは各部屋に寒さ対策の為に備え付けられていた薄手ながらも中々しっかりとした生地のローブ。冷え始めていた体がやってきた温もりに安心でもしたのかのように少しずつ暖かくなっていく。それはまあ有り難いし良いのだけれど、一つだけ問題がある。何で熟睡していた筈の君がここにいるのかなロイド君。「何か部屋が寒くて起きてみたらゼロスがいなかったから、探しに来たんだ」とまるで俺さまの心を読んでいるかのように的確な言葉を言いながらロイド君はすとんと横に腰を下ろして空を見上げた。綺麗だと星に向かって言うのが何だかほんの少しだけもやもやとする。勿論、星は綺麗だ。だから俺さまだってこうして寒い中外に出てきて見上げているのだから。でも、うん、星がロイド君の気持ちを独占してしまうのが嫌なのかもしれない。ほんと、笑えないくらいに子供染みた嫉妬心。

そんな気持ちをどうにか消そうと視線をロイド君から星に移す。手に届かないからこそこんなにも焦がれるのかもしれない、なんて後ろ向きな事を考えそうになっていると不意に右手が包まれる感覚。不思議に思って右手を視界に入れると、育ち盛りのしっかりとしてきている大きな手に握られている自分の手。どくりと大きく心臓が高鳴る。手を繋いだのが初めてな訳ではない。でもこうやってグローブ越しでは無く素手と素手で握ったのは、初めてだ。いつもはあまり感じない高い体温を直に感じるようで俺さまはもう暢気に星を見上げるなんて出来なくなっていた。急にこう言うことするの、本当に反則じゃねえの。

「熱いな、ゼロスの手」

そう言って眩しい笑顔を見せるロイド君に内心ずるいと叫ぶ。そんな風に言って、俺さまばっかり動揺しまくって、ずるい。俺さまはこうして二人でいるだけでも緊張するって言うのに。「だからさ」とロイド君が口を開くと合わせる様に俺さまの手を握る力も強くなっていき、星を眺めていた瞳がそっと俺さまを映す。それが嬉しくもあり気恥ずかしくもあって思わず視線をずらすと「ゼロス」と優しく頬を撫でられてそれとなくだけれどしっかり顔を上げさせられてしまった。こんな変に高いテクニック、一体何処で覚えてきたの。

「ずっとこうして、ゼロスの手を握っていたいよ」

その何の悪びれも無い本心に、俺さまの心臓はいつまで耐えられるのだろう。「と、とんだ口説き文句だねロイド君てば、でひゃひゃひゃ」笑って誤魔化してローブを頭から被って火照った顔を必死に隠せば、肩をそっと引き寄せられて「こうすれば、もっと温かいだろう」と優しい声。ああもう敵わない。何でこんなに俺さまが喜ぶことばっかりしてくるの。「好き」小さく小さくそう呟いて、さっきまでよりもずっと眩しく見える星をロイド君の体温を感じながら俺さまはそっと眺めた。星が綺麗な、夜の話。


thanks! wizzy




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