tales | ナノ

「腹減った」甲板に一人で寝転がり誰に言うでも無くそう呟けば「じゃあ昼飯でも食いに行くか」とごく自然に返事が返ってくるものだから、その声に驚いて起き上がれば、いつの間にか俺の後ろに不敵な笑顔を浮かべた男が立っていた。ここにいるメンバーの中でも特に俺が苦手とする男、ユーリ・ローウェル。基本的に何を考えているのか分からないし、いつもフラフラと一人で消えてしまう。一匹狼なのかと思えばこうやって急に現れては俺にちょっかいを掛けてくるし、訳が分からない奴。だから苦手だ。信用ならない。そんな奴と昼飯なんてちょっと緊張する…、ち、違う、油断ならないから、そう、だから御免だ。「一人で喰うから良い」そう言って隣を通り過ぎようとすれば、パシリと腕を掴まれて「偶には良いだろ?」とこっちが断わり難いほどの笑顔。ルビアが見たら黄色い声を上げるだろう。きっとどうあっても一緒に食堂へ来るだろうこいつを振り払う方法が思い付かなくて俺は小さく溜め息を落としてユーリとの食事を了承した。嗚呼緊張する、ち、違う!油断出来ない。別にこんな奴なんとも思わないし、飯くらい、一緒に食べてやっても良いし?

「あ、甘…」

そう声を上げたのは俺。何で、カレーが、甘いんだよ!甘い物が苦手なので辛い物を頼んだのにこれじゃあ意味が無い。項垂れる俺を前に平気な顔で、寧ろ、嬉しそうな顔をして謎に甘いカレーをぱくぱくと口に運ぶユーリに思わず「良く食べられるな」と言葉を零してしまった。そう言えばこいつは俺と正反対の甘党だったっけ。どこまでも相性が悪い。俺の言葉にユーリは軽く笑って「美味いからな。ヴェイグに感謝だ」ともう一口カレーを口に運ぶ。そういえばこのカレーを作ったのはヴェイグだっけ。あいつの所ではカレーは甘いものなのだろうかと考えていると、俺の考えを読んだかの様にユーリが「このカレーはあいつの仲間直伝なんだと」そう言った。こいつの話によるとここには来ていないヴェイグの仲間に俺と正反対の辛い物が苦手な奴がいるらしい。そいつが発明したのがこのカレー、蜂蜜入りの甘カレーと言う訳で。俺にしてみれば全くもって良い迷惑なのだけれど、仲間の仲間、の悪口なんて言えないし、俺がすごく子供みたいだし、食べるしか無いじゃんか。料理自体が不味いのではないのだから食べられる筈だと気合を入れて口に運ぶけれどやっぱり苦手なものは苦手でついつい手が止まってしまう。そんな俺の様子を見て目の雨の男がぷ、と小さく声を出して肩を震わせる。他人事だと思って笑いやがって、やっぱり俺、こいつ苦手。こうなったら意地でも全部食べてやるとスプーンを強く握り、蜂蜜のたっぷり入っているカレーを食べようとすると、ひょいとユーリがカレー皿を持ち上げてぱくぱくと止める暇もなく食べ始めてしまった。「俺の飯!」そう叫んだ時には皿はほとんど空でほんのりと蜂蜜の香りが漂うばかり。

「うん、やっぱり美味い」

そう言ってにっこり笑うユーリに俺の昼飯を返せと怒ろうとした時、「こらユーリ!」と高い声。何だ、何だと声のした方を向けば、腕を組んで頬を膨らませたファラが眉を吊り上げて立っていた。怒っている、とても。「今カイウスのご飯食べたでしょ!もう、どうしてそんないじわるするの?!」そう言ってユーリを叱りつけた後、俺に「ごめんね、カイウス。良かったらこれ食べて」と作りたてだろうオムライスを置いた。多分ファラが作ったものだ。と言うことは彼女の昼食なのではと思い断ろうとすると、「これヴェイグのカレー、すげえ美味いぜ?ファラのオムライスとこれ交換でどうだ?」とユーリが自分の分のカレーを差し出す。「もう、全然反省してないじゃない。私はカイウスにあげたんだからね。ヴェイグのカレーは私も食べたいから今日は特別だよ」と渋々と言った様子でユーリからカレーを受け取り、「カイウスにいじわるしたら駄目だからね!」と言い残して去っていった。ファラはいつも元気で何だか嵐みたいだなと思う。あまりの事に俺がポカンとしているとユーリが「早く食べろよ。折角出来たてなのに冷めたら勿体無いだろ?」と急かしてくる。

「うるさいな。元はと言えばユーリが俺のカレー取るからファラからオムライス貰うこと、に…あれ、え?」

ちょっと待てよ。あれ、考え方によってはユーリがワザと俺の分のカレーを食べて俺がカレーを食べなくても良い様にした、って考えられるんじゃ。いやいやでもファラが俺達のやり取りを見ていたのは偶然で、いや待て、それすら計算していたとか…?有り得る、この男ならそこまで考えての行動でも不思議じゃない。じっと深い瞳を見てみるけれど、悔しい事に何を考えているのかさっぱり分からない。すると何を思ったのかユーリが俺の手からスプーンを取り、オムライスを掬う。また人の分を食べるのかと思えばずいっとオムライスを掬ったスプーンを俺の方に向けてきた。

「ほら、あーん?」

「…?!じ、自分で食べられるよ!馬鹿ユーリ!」

「何だ、違うのか?あんまりこっちを見るものだからして欲しいのかと思ったんだよ」

嗚呼もう有り得ない!俺はやっぱりあんたが苦手だよ!もう絶対に一緒に飯は食べないからな!顔が火照るのが自分でも分かって、その恥ずかしさから逃げるようにオムライスを必死に食べる。自分に視線が向けられているのが嫌という程に分かる。絶対に今、目の前でユーリは笑っているだろう。ユーリなんてもう、き、嫌いじゃないけれど、好きじゃない。人の事おちょくって遊んで、何だと思っているんだ。カレーだってちょっと苦手なだけで食べられない訳じゃない、ユーリが余計なことしなくても大丈夫だったんだよ。……っ、だから、別に感謝もする必要無いし、ファラのオムライス分けてやる義理もないし……くそ。

「………ありがとう、ユーリ」

「ああ、礼ならその可愛い頬についてるオムライスで良いぜ?」

ちゅ、と俺の頬でリップ音が鳴り、俺が声にならない叫びを上げたのは数秒後のこと。(や、やっぱり俺、あんたの事苦手だ!)(そうか、でも、俺は好きだよ)(……っ!)


thanks! ハーケンクロイツ




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